SOS 077 巡幸
その日は、晴天となった。
日程変更を余儀なくされたギルドの
旧世代連中は悔しがっているだろうが、
強行した新興勢力達は
満面の笑みで喜んでいることだろう。
かつては神導術ギルドの中でも
占星部は主流派であり、
政においても、
多くの決定権や裁量を持っていた。
けれど、賢王以降は学術ギルドとの連携が
強化されたことで、
実験的検証などの項目が重要視されるようになり、
結果として検証が不可能、
または不十分な占星術などによる
判断は淘汰されていった。
これにより、不正などの横行が
激減することとなったため、
一部の層を除いては
歴史的な改革として持て囃されている。
そんなあおりを受け神導術ギルド内での
占星部のあり方は
非常に危ういものとなっていた上に、
今回の《巡幸》の日程変更がされたことで
その存在価値は決定的に終わったと言える。
王室の執り行う国家行事についての日程差配だけが、
占星部に与えられた最後の砦だったからだ。
これにより、神導術ギルドでは占星部に代わり、
学術ギルドとの連携で成立した古歴部が
実権を握ることになった。
「リオン様。
仰って頂ければ、一緒に随伴出来ましたのに。
せっかくその功績を
直接拝聴出来る機会が奪われたことは、
今でも残念に思いますぞ」
「陛下。公では無いとは言え、
私のことを敬称で呼ばれることは
お控え頂けますでしょうか」
「細かいことは気にされるな。
実績も何も無い新国王よりも、
あなたの方が優れているのは
誰が見ても明白だろうに」
新国王は、さも豪胆な人物であるように
見せかけた振る舞いを装う。
エルダナリヤ・リオンは辟易しながらも、
新国王の機嫌を損ねないように注意を払いながら
凜とした表情を崩さない。
色々と思うことはあるが、
神導術ギルド占星部の現状を鑑みれば
エルダナリヤ家の一員として、
無碍には出来ない事情があった。
四剣と呼ばれる貴族家は
ウルメリア王室を護るように
四方を取り囲んでいる。
東方を護る位置にあるエルダナリヤ家は
神導術ギルドの重鎮であり、
強い影響力を持っていた。
しかし、占星部の横行により
当初の目的であった神導術の研究は
学術ギルドに奪われ、
信仰研究も主教ギルドに取って代わられる。
神導術ギルドの幹部は、仕事を
恵んでやったというような言い方で
二つのギルドをくさしているが、
実際はギルドの形骸化が加速していた。
もはや、衰退は時間の問題でもあった。
じきに、古歴部の背後から糸を引く学術ギルドに
全てを乗っ取られるだろう。
リオンは、それを避けたかった。
「陛下、予定通り
御巡幸のお触れ回りを始めさせて頂きます。
機工馬車も準備を終えて御座いますので、
近衛兵に一言お願い出来ますでしょうか」
宰相のマックスが歓談を遮る。
新国王はせっかくの時間が削られたことに
不満気な表情をしたが、すぐに何かを思いついたようで
リオンへ耳打ちをする。
マックスは不穏な空気を感じ、それを制しようとしたが間に合わなかった。
「……未発見の《洞穴》ですか?」
「ああ、それに珍しい術式も見つかったらしいですぞ」
新国王は、民衆には決して伝えられない情報を
リオンに軽々しく話した。
マックスの額に青筋が走るが、新国王はそれどころではなく
リオンが話に喰いついてきたことに喜んだ。
「まあ、わたしの見立てでは戦時中の遺物だと思いますが、
中々に興味深いと思いませんかな?」
「ええ、それが本当なら是非見てみたいものですわね」
新国王が、その言葉を待っていたかのように提案を出す。
「実は、その《洞穴》に害獣狩りへと向かう予定になっているのですよ。
大した獲物はいないと思いますが、一緒にいかがですか?
先触れのお役目は果たされたわけですし、お時間はおありだと思うのですが?」
「陛下! そんな勝手を申されては困ります!」
マックスの怒号が響くが、新国王は意に介さない。
「良いではないか。華のない我らの近衛兵に
一輪の花を添えるぐらい、構わんだろう?
それにリオン様が一緒の方が、わたしも安心できますからな。
そうそう、ついでに近衛兵の実力もその眼でお確かめいただけた方が
いいかと思いますし」
新国王はリオンが嫁いできた時のことを考えて
適当なことを言い募る。
リオンが知る限り、こうなった新国王はマックス宰相でも
どうにもならないはずだった。
さすがに当日の予定を変更することは差し止めたが、
明日の予定には大幅な変更を余儀なくされる。
そして《巡幸》は始まるのだった。




