SOS 074 夕食
コンコン、と玄関扉が叩かれたのは
丁度その時だった。
重い空気が動き出したこともあり、
シルビアは特に考えもせず
扉を開けるために席を立つ。
「はい、どちら様で――」
『来ちゃった』
まるで可愛げの無い平坦な声と共に、
外にいたカイケンが返事をする。
隣に立っている宿舎の管理人は、
困惑しながらも黙って様子を見守っている。
「……何です? 急に」
『夕食に御招待をと思いまして』
「いや、今から食堂に行くので」
奢る気はサラサラないシルビアが
その誘いを無碍に断ろうとする。
『大興飯店ってお店、ご存知ですか?』
シルビアの扉を閉めようとする手が止まった。
『ギルマスさんから一緒に御友人も
誘ってはいかがですか? と提案をいただきまして。
是非、シルビアさんとソアラさんを
御招待しよう思ったのですよ』
「……いや、友人じゃないでしょ」
『そうか、親友ですもんね』
「逆よ、逆」
しかし、大興飯店に興味が無い訳ではない。
しかも話の流れ的には、タダで食べられる様子だ。
節約家のシルビアは、大いに心が動かされる。
「わ、わたし行きます! シルビアちゃんも、ね!
一緒に行こうよ」
「……」
結局、シルビアとソアラはカイケンに付いて行く
こととなった。
奇妙な仮面の女は目立ったが、
ギルド職員が一緒にいることもあり、
事件もなく目的地である大興飯店へと到着した。
カイケンを見て、従業員が
三階の個室まで案内してくれる。
一階は一般予約客。
二階は貴族客専用。
そして三階は王族または身内専用の
ものとなっているらしい。
流石に王族専用の部屋には
通されなかったものの、
充分特別な扱いをされていると
肌で感じる二人。
カイケンは何を感じているかよく分からない。
「やあ、ようこそお二人さん。
カイケン様も、お手を煩わせてしまい
申し訳ありません」
『いえいえ、自分から無理に
お願いした事ですので、
それはこちらの台詞です』
どうやらカイケンが自分で案内役を
買って出たらしい。
二人は和やかな空気で、
何かしらの話し合いが終わった様子に思えた。
「……あ」
ソアラがそれを見て目を点にする。
ゼンが大きくて立派な円卓に
突っ伏していたからだ。
手には高級そうな湯呑みに、
薬膳酒が注がれている。
《不老酒》と呼ばれる食前酒だ。
「申し訳ありません。誤って
呑んでしまったようです」
嘘だろう。無理やりではないだろうが、
誘導して呑ませたのは明白だった。
『まあ、大丈夫でしょう』
カイケンはそのまま着席して、
シルビアとソアラを手招きした。
あまり気にしていないところをみると、
カイケンはゼンを介抱するつもりは無いらしい。
『では、本題にはいりましょうか』
「ほ、本題?」
ソアラが聞き返す。
『はい、お二人に
お願いしたいことがあるのですよ』
カイケンがいつもの声で、そう言った。
『はい、』




