SOS 068 正体
「あ…カイケンさん」
『お待たせしました』
カイケンが膳の元にやってきた。
そこは冒険者ギルドのサブマスター執務室。
部屋の主は不在で、代わりにピースとサティが
膳の相手をしている。
とは言え、相手は幼児では無いし言葉も通じ無いので
逃げ出さないように
同じ部屋で見張っているだけだった。
「ど、どうなんですか?」
色々な意味を含んだそれは、
カイケンにおよそ正しく伝わったらしい。
『まあ、概ね予想通りです。
今から私たちはカルマリの冒険者ギルドに
全面的な協力をすることになりました。
それさえ守れば、身の安全は保証されます』
「具体的にはどんな?」
『まあ、聞かれた質問には
正直に答えると言うのが良いでしょうね』
当たり前と言えば当たり前の事だが、
召喚前の記憶が不鮮明な膳は
それはそれで不安になった。
『いいんですよ、それも含めて正直に答えれば』
その不安を見透かしたように、
カイケンがさらりと助言する。
『それより、そろそろ今後の話でもしましょうか』
「どうだ? 解るか?」
オズマットがヒナギクに尋ねる。
「いや、全く聞き覚えが無い言語です。
異界召喚というのも
全くデタラメってわけでも無さそうですね」
ヒナギクが小声で答える。
二人は気配を消して、サブマスター執務室の
扉の近くに立っている。
ただ二人とも、あのカイケンには
気配を消したところでバレているのだろうと
察しはついていた。
それでも抜けない癖が、彼らの生い立ちを
物語っている。
「じゃあ、やっぱりあの狗仮面の御仁が
今回の事件と関わっているのは
間違いないか」
「むしろ首謀者じゃないのです?」
ヒナギクが至極真っ当な推理を披露する。
「まあ、少なくとも関係者だろうが、
あまりに情報が少ない。
あの情報ギルドの連中でも、
狗仮面の正体は不明だそうだ」
その言葉の意味をヒナギクは正しく理解していた。
「それはそれは、
さぞかし悔しがっているでしょうね」
思うところのあるヒナギクは意地悪そうに笑う。
「しかし問題は、どちらかといえば正体云々じゃないがな」
「それってつまり?」
「あの狗仮面の御仁は、多分俺より強い」
「……冗談抜きで?」
「いつでも俺は大真面目だよ」
それには賛同しなかったものの、
ヒナギクはそれを聞いて、今回のオズマットの判断に
納得がいく。
「精々仲間のふりをしてもらってる間だけでも、
多少の情報や弱味ぐらいはいただきたいからな。
どうやら、あの男の子については
かなり気に掛けているようだし、
上手くこっちに誘導出来れば良い交渉材料になるだろう」
オズマットがニヤリと笑う。
「それじゃあ、早くシルシルかサンサンとでもくっつければ
いいんじゃないです?
結構サンサンの胸とかちらちら見てましたし。
シルシルのこともまんざらではなさそうでしたよ」
「抜け目ない……というか、良く見てるな」
「年頃の女の嗜みなのです」
「別に仲良くなるのはお前でもいいんだが?」
「あたしにはオズマットさんがいますので、浮気は出来ないのです」
「……そうかい」
オズマットは頭を抱えながら、
今後のことを考えていた。
そうこうしている間に《巡幸》の先触れがもうじきカルマリへとやってくる。
泰然としているオズマットだが、焦りが無いわけではない。
「さて、今回の先触れはあの方か……吉と出るかそれとも」
オズマットは考えるために、瞑目する。




