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SOS 067 グレース

 謎の飛翔体がカルマリの上空を通り過ぎていったことは、

瞬く間に広まった。


 普通はそんな話が広まっても、単なる噂話のようなもので

信ぴょう性のない飲み屋でのマユツバ話として扱われるものだが、

今回は目撃者が数多く存在しており、どのギルドでも無視するわけにはいかないほど

その話は大きくなっていった。


 曰く、神の御使いであるとか。

いや、他国の新兵器であるとか。

いやいや、新国王が作られた新しい乗り物であるとか。


 いやいやいや、封印されていた怪物であるとか。


 何故なら、冒険者ギルドが急に依頼する金額を倍増し出したのが

丁度その飛翔体が現れる直前だったのは、

その怪物を捕まえるためだったに違いないからだ。


『思ったより、勢いがついてしまいました。

もっと近くで着陸する予定でしたが、

大幅にずれてしまいましたね。申し訳ありません』


 全く申し訳ない感じが出ていない、淡々とした口調で、

奇妙な狗の面を被ったカイケンが座っている。


 その横には、ソアラとシルビアが座らされており、

さらにその後ろにはガジェットとトールが座らされている。


 カイケンを除いた全員の表情は土気色になっていた。



 なお、現在のカルマリは国家十二織の中で、

金融商業・土木林業・農水畜産業・人材そして冒険者ギルドが

支部本体を持っている都市だ。


 他のギルドは出張所や公的相談所、または他の支部本体に

出向する形でギルドの構成員を派遣したりしている。


 フランドルが不承不承で冒険者ギルドに出向していたのは、

国で決められているギルド間交流の義務年数を消化するためだった。


 そのため、ガジェットとトールもこうしてここに居るわけだ。


「わたくしは、着陸の地点がずれたことを

問い詰めているわけではないのですが?」


 氷のように冷たい声が、その場にいる全員の耳を打つ。


 顔だちも立ち振る舞いも、怜悧な印象を強烈に感じさせる女性、

冒険者ギルドサブマスターであるグレース・ガーその人だ。

 脅すわけではないだろうが、苛立たしげに腰に納刀している細剣の柄を

時折キンキンと指で弾いて鳴らすのでシルビア以下四名がその音を聞くたびに

びくびくと肩を震えさせていた。


『あれ? ではどうして無関係のわたしが

ここで地面に座らされているのでしょうか』


「あんな高速で飛翔する乗り物を都市の上空で横切っておいて、

無関係も何もないでしょう。

 この《巡幸》前に、付近で得体の知れない《洞穴》が発見されて、

かつ妙な《召喚術式》が発動した上で、そんなものを飛ばされた日には、

問答無用で殺されなかっただけ幸運だと思っていただきたいですね。

 ギルドマスターに感謝して欲しいぐらいです」


 言葉の棘が具現化されたと錯覚するぐらい、

グレースの言葉には端々に苦々しい思いが濃縮されていた。


 一方のカイケンは全く意に介しておらず、

とうとうと説明を繰り返し始めた。


『いえいえ、ですから先に申しあげた通り、

わたしはソアラ様とシルビア様、ガジェット様とトール様の

早くカルマリに帰還されたいという思いを汲み上げ

秘蔵の馬を御貸出しさせていただいた次第なのですよ。

冒険者ギルドと戦術ギルド様には

感謝して欲しいぐらいです。なんちゃって』


 淡々と話しをするカイケンの言葉に、グレースは細剣の柄を鳴らすことで答えた。


 その音を聞いて、土気色四人衆は何度目になるかわからないが再び肩を揺すった。


「…ソアラ・サングリッド。シルビア・セイレン。何か申し開きは?」


「あ、あうあうあう…あうません」

「ございません」


 ソアラとシルビアが声を絞り出す。


 先ほどから似たような問答を繰り返して、現在に至る。


 ここは冒険者ギルドのギルドマスターの部屋だ。

広さもそうだが、一番の特質は「情報の保護」に特化した造りが重要な

部屋となっていたことが、今回の特別諮問の舞台になった理由だった。


「まあまあ、ガーさん。そのくらいで」


 温和そうな部屋の主、ギルドマスターベントリ・バーズがグレースを宥める。


「そうだな。むしろここまで情報を提供したんだ、

そっちの狗の御仁には今後の協力をお願いしたほうが得策じゃないか?」


 使えるものは何でも使う、オズマット・オーサーが

にやにやしながら顎を撫でた。


「そうですね。あたしもあれ乗ってみたいし」


 オズマットの意見に賛成するヒナギク・ハーヴが見当違いな意見を言う。


「……ったく、コレだから」


 グレースの射殺さんばかりの視線を、涼し気に受け流す

オズマットとヒナギク。


 しかし、ギルドマスターの意向を無視することは絶対にしないグレースは

やっとピリピリした雰囲気を収めることにする。


「…わかりました。では、協力をお願いするという方向で

お話をさせていただきましょう」


『わあ、ありがとうございます。グレース様。

ちなみにお茶とか出ますか?』


 何度目になるかわからないが、再び現場が凍った。

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