SOS 062 殺気
アルマは本当に面倒だと思っていた。
本気を出せば、この三人を瞬殺するぐらい
造作も無かったが、それによる影響を
考えるのが面倒だった。
かつて現役の《宝銘》であった頃は、
それなりに理論的な行動をしていたが、
一線を退いてからは、久しく戦闘らしい戦闘すら
行ってはいなかった。
サイエンには『適度に恐怖を与えて欲しい』
と、言われている。
暗に、殺すなということだろう。
だがしかし、それが思った以上に難しい。
簡単に退いてくれる相手ならまだしも、
この少女は悲壮なほどの覚悟を秘めていた。
「(やりづらいな…)」
戦時中ではないとはいえ、
依然として貧富の差は国中で歴然としている。
もちろん、全体として随分と豊かにはなったものの、
僅かに残されたそういうモノタチの中には
こういう目をしているモノも多い。
「(どうする?)」
怒涛の攻撃を難なく避けつつ、
アルマは自問自答を繰り返す。
ただ年老いた頭では手に余るようで、
その顔は渋面に染まっている。
「相手も苦しそうですよ!
もう一息!」
トールが切れかけた術式に追加術式を掛ける。
丁度切れる瞬間に補充をするという、
技術的に高度な技だ。
「(やれやれ、戦争もしないくせに
修練だけは一丁前だな…)」
アルマはやっと真面目に相手を見る。
「(仕方ない。手足の1・2本。もらうか)」
「「!」」
その時、シルビアとトールに怖気が走った。
アルマがほんの少し見せた殺気に
二人は強烈な反応を見せる。
その圧力に膝をつかなかっただけでも
上出来だった
「《離片》」
アルマの左手がシルビアの纏う術式を
バラバラに千々れさせる。
反射的に突き出した《神鉄如意》も等しく
破片すら残さず消していく。
たたらを踏んだシルビアに対して、
アルマは右手をかざす。
身一つになったシルビアは、
茫然と降りてくる手を見つめた。
「……まずいな」
その時、アルマの手が止まる。同時に、
山一つ向こうにある山間部が爆ぜた。
もうもうと煙の上がる中で、
誰かが戦闘状態に入っていることが分かる。
シルビアもつられてそちらを見た。
本来であれば直ぐにでも離脱するべき状況だが、
アルマの興味が完全に自分から外れたことを悟り、
どういうわけか、自然とそうなった。
「《離伝》」
アルマはそう呟くと、その山間部へ向けて右手を伸ばす。
何をしているのかわからないシルビアだが、
何をしようとしているのかは理解出来た。
山一つ向こうの誰かに対して、
攻撃術式を放ったのだ。
いくらなんでも、この距離でこの状態で、
正確に目標を撃つことなど出来るはずが無い。
そう理屈では考えているのに、
シルビアは否定が出来なくなる。
「…やれやれ、向こうの連中も随分手練れだな。
熊の戦士みたいな男と、小柄で黒髪の嬢ちゃんなんだが
……もしかして知り合いか?」
アルマの言葉で、それが恐らく
オズマット教務官とヒナギク監査官の二人だと確信した。
「まあいい、続きだ」
思い出したように、アルマはシルビアを見る。
そしてやっとシルビアは、自分の危機を思いだした。




