SOS 053 幕開け
カルマリ郊外は多くの自由冒険者たちで賑わっていた。
生息している動物たちには気の毒な話だが、
普段は見逃されるような小物の動物たちも例外ではなく、
片端から狩りの対象となっていた。
理由は単純で、カルマリの冒険者ギルドが
カルマリ領内に生息している動物達の報奨金を
期間限定で倍額する通達を出したからだ。
常時依頼の小物で倍額というのももちろんすごいが、
臨時依頼される動物に至っては
三倍以上の値段がついているものもあった。
単純に同じ労力で倍額以上稼げるのだ。
その日暮らしが多い自由冒険者連中にとっては
参加しないわけにはいかない
大事となったのも当然だろう。
「おい、そっち行ったぜ! 抜かるなよ!」
「任せとけ、外すわけねえだろ!」
礼儀とは無縁の野太い声が響き合う。
普段、組み慣れていない仲間でも、
目的が一緒ならさしたる弊害は出ない。
複数人の集団が、次々と獲物を狩り収めていく。
「おいおい、いつもに増して調子がいいな。
せっかくだから、まだ行こうぜ」
最年長の男性がそう言うと、全員が頷いた。
「ああ、勿体ねえ。
これなら最高額の記録が出るんじゃねえか?
このまま行っちまおうぜ。休憩もいらねえよ」
周りにいる連中も、
そうだそうだと賛同する。
そこへ、場違いな声が届いてくる。
「もしもーし、ベゲットさーん?
お久しぶりでーす」
「あん?」
名前を呼ばれた最年長の男が
声の方角へと振り返る。
茂みから現れたのは、冒険者ギルド
カルマリ支部所属のヒナギクだった。
「…なんだこのガキ」
集団の中でも若い男が前に出てくる。
最近カルマリに来た流れの冒険者だ。
明らかに敵意をむき出しにしている。
「おい、止めろ。
そいつは管理官だ。
下手なことすんじゃねえ」
若造は驚いて顔をしかめる。
疑いを隠そうともしない。
「エヘヘ、どうもです、ベゲットさん」
ヒナギクは複数人の冒険者を
連れていた。職員ではなく、
臨時で雇われたものたちだ。
全員かなりの使い手であることは
立ち振る舞いから想像出来る。
「どうした。やけに物騒だな。
てっきり魔獣でも出たかと思っていたが、
違うのか?」
ベゲットは熟練の冒険者なので
今回の依頼を初めから疑っていた。
よくあるのが、余所から来た魔獣などが、
領域内に入って来た時などに、
他の依頼を餌に多くの冒険者を投入させる方法だ。
この場合、わざわざ魔獣討伐用に
依頼をかけるより
安くつく場合が多いのだ。
もちろん、例外措置的な裏技だが
冒険者ギルドではよくある手法だ。
今回は確かにやや太っ腹な判断だが、
おかしい程ではなかった。
「えっと、まあ、そうですねー」
ヒナギクはバツが悪そうに、曖昧な表情を作る。
それを見たベゲットは、悪い予感を感じた。
「おい、もしかして…」
ヒュンと風切り音が鳴ったのは、その時だった。
違和感に気が付いたのはヒナギクとベゲット、
そしてヒナギクの連れてきた連中ぐらいだ。
「ぐがぁ!」
突然、集団の端にいた若い男が、叫び声をあげる。
見ると、その男の左腕が真っ黒に焦げて
半ばから崩れ落ちていた。
ヒナギクはそれが炎熱系の術士の仕業だと直感する。
そして、該当する人物の顔も思い浮かんだ。
「(フランドルさん。落とされたみたいね)」
動揺は微塵もなく、
ヒナギクは思考回路を切り替える。
カルマリでも上位に入る、
強者としての本性が露わになる瞬間だ。




