SOS 050 下山
方々で不測の事態が起きている中、
ソアラと膳はゆっくりと確実に
山を下っていた。
「…それにしても、
《融合化》とは凄い固有能力ですね。
高名な術士の家系なのですか?」
「あー、いや、
その、地方貴族の末裔?
らしいです」
耳元で囁かれる言葉を
そのまま言う膳。
一応意味は教えてくれるが、
味わっている余裕は無い。
ちょっとした罪悪感はあるが、
ソアラが簡単に信用してくれるので
話は滞りなく進む。
「なるほど、わかりました」
隣で歩く膳が首を傾げる。
「高名な家系の血筋が原因で
ゼンくんは召喚されたのですね」
『そんな理由で召喚されたら、
たまったもんじゃ無いでしょ』
カイケンが膳にだけ聞こえる声で呟く。
「落ち着いたら、戻りましょうね」
ソアラは親切心から、そう言う。
膳はそれを聞いて、不思議な気持ちになる。
普通に考えれば、朝起きて、
目の前に有り得ないサイズのクモやタヌキを見て、
さほどの理解も出来ないまま、
自分が別の世界にきていると聞かされたわけだ。
もうちょっと、変になってもおかしくない
そんな状況で、膳は何故かほっとしていた。
それは、帰ることが出来るという意味ではなく、
もう帰らなくて良いという安心感からくる
ものだと、どういうわけか直感で理解した。
既に、前の世界になど
未練はなかったのだ。
「? どうしました? ゼンくん。
大丈夫ですか?」
「あ、だ、大丈夫。です」
ゼンは何かを誤魔化すように、
わざと大きく頷く。
自分でもわからないが、
まだソアラには本当の事は言えないと
そう思った。
二人の歩みはゆっくりとしており、
丸1日かけて麓に下りた頃には
身体中が汗と泥でクタクタになっていた。
麓にある宿場町に着くや否や、
早速、湯浴みと食事にありついたのは
仕方無いことだろう。
ソアラは一息ついて、
まあ次の定期便で
カルマリに戻れば良いと思い、
今ぐらいはと寝具に横たわる。
『ちょっとあなた。
ギルドの掲示板を
見に行くように言いなさい』
「え?」
寝具にこれ見よがしに空けられた
半分のスペースを凝視しつつ
膳が懊悩しているところ、
カイケンから声を掛けられた。
『冒険者ギルドの掲示板よ』
そう言えば、このカイケンは最初に
出会った時から今の今まで、
食事も水も飲んでいない。
『この私は食べないし、
飲んだりもしない。
いいからさっさと言いなさいってば』
ふと思いつきでそれを尋ねるたが、
カイケンは膳を面倒そうにあしらう。
「あ、あの、ソアラさん?」
「ふえ? 何?」
慣れない異国語、もとい異世界語で
膳はソアラに声をかける。




