SOS 044 無形
無形のアルマと呼ばれた男が居た。
その名前が《災厄》そのものの意味として
使われ始めたのは、もう随分と昔の話だった。
普通であれば、一般的な光人族は
寿命がそれほど長くはない。
精々、系統的に近しい地人族や獣人族と比べて、
半分かそれ以下だ。
その代わりに、新しい道具や術を発現させる能力は
どの種族よりも抜きんでていると言われていた。
そして、そんな光人族の中でも、時に他の種族を
凌駕しうる才能を持ったものも現れることがある。
そういう傑物の中でも、
国家に認められた存在を総じて
《宝銘》と呼ぶ。
《宝銘》は一人で国を滅ぼすと言われるほど
強大な力を持っている存在だった。
畏怖と憧憬。
その両方を兼ね備えた者たち。
無形のアルマは、そんな《宝銘》の中で、
特に変わった人物として有名だった。
他の多くの《宝銘》持ちが、
勇者、英雄や聖女、賢者や導師
などの呼ばれ方をしたが、アルマだけは違った。
ただただ、国からの命令に従い、
黙々と重罪人を駆逐していく。
誰に誇るでもなく、淡々と遂行する。
彼を見て、人々は彼が《宝銘》の中でも
それほど強い存在ではないと思っていた。
強くないから、従い続けるのだと、思っていた。
血蒸事件が起きるまでは。
『ご存知ですか? 血蒸事件』
意気揚々と歩いているサイエンが
後ろのフランドルに尋ねる。
「…そんなもの、初等部学生でも知っているぞ」
不機嫌を隠さずに、そう答える。
『じゃあ、これはどうです?
あの事件の起きた理由はご存知ですか?』
「報奨金の減額に怒った、という話だろう?
それ以降、報奨金の減額は不可能になったというしな」
フランドルが自分の顎を撫でた。
サイエンがそれを聞いてクスクス笑う。
「…何がオカシイ?」
フランドルの目が細まる。
『いいえぇ、模範解答ですよ。
でも、実際はそうじゃなかったりするんですよねー?』
サイエンがあさっての方向を向き、
大げさに手を広げる。
『いらっしゃいませ、アルマ様
どうぞこちらまでお越しください』
フランドルは困惑する。
そんなもの、見る影も形もない。
先ほどから終始、感知術と探査術をかけ続けているのに、
何にも反応が起きないのだから。
「…その術は、不完全だ。
特に、俺のような《宝銘》連中には
通用しないぞ…若いの」
フランドルはぞっとする。
確かに、サイエンの眼の前に、誰かが居る。
年齢はかなりの高齢だ。
それは当然、無形のアルマが生きていれば
ほとんど二百歳に近い。
光人族の寿命を遥かに超えている。
「アルマだ。アルマ=レオリスムだ」
ぼそり、とその老人は呟いた。




