SOS 043 衝動期
ソアラの目の前で、
山の主がゆっくりと眠りにつく。
その様子を眺めながら、
ソアラは今の状態をおおよそ理解していた。
言い方は悪いが、普段のソアラでは無理な話だ。
それは、シルビアと《融合化》したことで起きた
意識と知識の融合がもたらした恩恵でもある。
ソアラはミラの方角で、
大きな音が鳴り響いているのを知覚する。
もっともそれは、
普通に聞こえているというよりも、
頭の中だけで映像と音が反響しているような
不思議な感覚によるものだった。
誰かに説明をしろと言われても難しいが、
今の自分の意識が遠くにいるシルビアと
混ざり合っているのが分かる。
前とは違い、今回はそれを自覚出来ていた。
同時に、シルビアが
理性を失いかけているのも分かる。
あのシルビアに限ってとも思ったが、
反対にシルビアであればそれもあり得た。
彼女は、生まれつき神導力を
普通には扱えない。だから、
術士の家系にとってはつきものの
《衝動期》に対する教育を充分には受けていない。
神導術を扱う術士には、
幼少期からその片鱗が現れることが多い。
発現してからは緩やかに
内包する神導力の容量が増えていくが、
十歳を越えた辺りで急激に増えることがある。
その時、自分の理性を越える力に引き摺られ、
感情の赴くまま力を行使してしまうこと。
それが《衝動期》だ。
「(……ダメだよっ! シルビアッ!)」
理屈ではなく、気持ちが動く。
ソアラが反射的にシルビアへ向けて意識を飛ばす。
ソアラは理解していなかったが、
それは遠隔意識操作を行う神導術の行使であり、
一部を除き《禁忌》の術に分類される技だった。
「(……っ、るさい、
分かってます、それぐらい!)」
いつものシルビアが戻る。
ソアラに対する態度も変わらない。
「(にしては、
随分と滅茶苦茶な状態みたいだけど)」
「(…くっ、あー、はいはい、すみません。
申し訳ございませんでした!)」
苛立ちを隠す気もなく、シルビアは開き直る。
珍しく、口答えすることも出来ないようだ。
「(よかったら《衝動期》の抑え方、
教えてあげようか?)」
「(結構です! それぐらい文献で知ってます!
それより、今から言うことを良く聞いてください!
お願いしますよ!)」
シルビアの話を聞き、
ソアラは後ろを振り返る。
同時に、繋がっていた感覚が消失し、
いつもの自分が戻って来る。
先ほどまで鮮明になっていた思考回路は鈍くなり、
もやがかかったように不鮮明になる。
まるで自分とシルビアの頭の中は、
これほどまでに透明度が違うのだと
見せつけられたような感覚だった。
そんな感覚を振り払い、
ソアラは背後にいた膳に焦点を合わせる。
さっきとは違い、今度は気を失ってはいない。
「ゼンくん、さっきの方針は撤回するわ。
カルマリに戻りましょう」
良くわからないが、膳はとりあえず頷いた。
『やれやれ』
その横にいるカイケンが溜息を吐く。




