SOS 042 交戦
『そうそう、助言を差し上げます』
と言いつつ、カイケンはしゃがみ込む。
そして弾かれたように地面を蹴る。
混濁していく意識の中、
シルビアは相手が天高く舞い上がったことを
目の端に捉えた。
普通は有り得ない手だ。
身動きの取れない状況では
術士の格好の餌食となるからだ。
けれどまだ、
意識が定まらないシルビアは
一旦身を引くしか無かった。
『私に特別なモノはありません。
強いて言えば、頑健なこの身体ぐらいでしょうか』
カイケンがわざとシルビアを外して、
その拳を振るった。
一瞬の無音の後で、
爆発したような大音量が耳をつく。
地面がぽっかりと抉れ、古い地層が顔を出す。
『つまり、この馬鹿力しか
取り柄はありません。
安心しましたか?』
とても安心出来ない威力を前にして、
シルビアは不思議な高揚感を得ていた。
確かに凄いが、脅威とは感じられない。
今の自分の方が、ずっと強いはずだ。
早く、力任せに倒してしまいたい。
そんな感情につき動かされ、
シルビアは相手の状態を
そっくりそのまま真似てみる。
即ち、身体を頑健に。
そして感覚を鋭敏に。
思考を止め、感じるままに身体に力を込める。
「……!」
言葉も無く、シルビアはカイケンに拳を振るう。
一瞬で詰めた間合いは音も置き去りにして
直後轟音を響かせる。
それを待っていたカイケンが拳を合わせ。
世界がひび割れたような音がする。
「…………!」
そこから先は、もはや戦争と言えた。
シルビアは自分の中から溢れ出る
神導力を巻き上げ、凝縮して
それを拳や脚にのせてただただ攻撃する。
まるで獣にでもなったような
開放感と快楽。頭の奥が痺れる
感覚と共に、地を削り岩を砕いた。
『まだまだ、理性が残っていますね。
それじゃあ、勝てませんよ?』
ズタズタになっている右拳を握りこみ、
カイケンは全力でシルビアの額に
打ち付ける。
シルビアは強引にそれを押し止め、
カイケンの右拳を万力のような力で握り、
反対に自分の右拳にありったけの
神導力を集中させる。
「ああああ!」
獣の咆哮と共に、
シルビアの拳はカイケンの顔面を捉えた。
視界を揺るがす程の爆音とともに、
カイケンの身体が地面へとめり込んでいく。
仮面が砕かれ、中身が剥き出しとなる。
小規模な地震のあと、その本性が晒された。
『お見事。
力のぶつけ合いで
遅れを取ったのは久しぶりです。
今のあなたなら、王都の近衛隊でも
勝てないでしょうね』
中身には無機質な機械がぎっしりと
詰まっていた。
シルビアは再び拳を握り締める。




