SOS 039 交渉
シルビアには目的があった。自身の就職先を
冒険者ギルドにしたときには、既にそれは命題となっていた。
ソアラとは違い、出自に恩恵のないシルビアは
他のギルドでは出世の芽がないことが分かっていた。
あるとすれば、稼いだ金が全てと言われる金融商業ギルドぐらいだ。
しかし、そこでもまた上層部は他の組織の上層部とつながりを持っており、
特権階級の縁故者でなければ、成り上がりは難しい。
そういう意味では、唯一、自国民ですらないのに、
国の英雄とされる《宝銘》持ちを輩出している冒険者ギルドは
まさに自由の象徴とも言われる組織だった。
シルビアは目的のために、どうしても出世する必要があった。
故に、今回の戦術ギルドとの取引は
悪いものでは無かった。
「協力と言っても、頼みたいことは二つだけだ。
一つは、あの《洞穴》の実際の危険度を知りたいこと。
そしてもう一つは、今回の秘密を墓場まで持って行ってもらいたいこと。
どうだ簡単だろう」
確かにその程度であれば問題はない。
ただ、あの《洞穴》でおそらく召喚されたであろう
あの少年をどう扱うべきかが迷った。
あの少年は危ういというのが、シルビアの率直な感想だった。
本人の持つ異常な力のわりに、その自覚がまるでない。
まるで、方向性の違うソアラを見ているような怖さだ。
そしてもう一つ、フランドルの作戦自体に
ある種の違和感を感じたことも問題だった。
冒険者ギルド職員の一員として
どうするべきか、迷ったシルビアは
目の前にいる二人を値踏みするために
こう切り返す。
「…それは構いませんが、それだとただの情報提供者ですよね。
今回の借りとしては、効果が薄いでしょう?」
相手の二人は目を見合わせる。
「わたしも、あなた方と同行させて下さい。
フランドル様に直接お取り付ぎをお願いします」
「いや、それは…」
「どうかな…」
シルビアは、相手が飲めないことを分かった上で、
その条件を出した。
とはいえ、協力に前向きなこちらを
引き込まない手はない。
真っ当な戦術ギルドの教育を受けていれば、
そう思うだろう。
「わかりました、ではこういうのはいかがでしょう。
私が、何者かの手引きでここから逃走を図ったとして、
それをあなた方のどちらかが追って下さい。
どのみちどこかでフランドル様と落ち合うなら、
その場で取り次ぎをお願いします」
しかし、突然の闖入者がそれを中断させた。
『ああ、ごめんなさい。
それは無理ですね』
奇妙な狗の面を被った黒づくめが現れた。




