SOS .035 不全
「(お前ら、抜かるなよ)」
山賊の頭と思しき男が声を抑えて言う。
その目には遠くの暗がりで動く男が映っている。
指示を受けた部下達は
慣れた様子で対象を迂回する。
幸い相手は《洞穴》の中でも
比較的広い空間にいた。
更に、探索の為に灯りを
使っている。
こちらの姿など影も見えないだろう。
そんな条件で相手を囲む事など
造作もない。
チキチキと虫の声がする。
その正体は部下達の準備が出来た合図だ。
訓練を積めば、舌先でこういう音を出すことが
出来るようになる。
頭も相手を仕留める準備を始める。
ピースの時とは違い、
完全に不意打ちで終わらせるつもりだ。
「《土槍連》」
唱えた瞬間、地面から槍衾の波が
怒涛のように押し寄せる。
これで死ぬか、それとも怪我をするか
はたまた防ぐか、それとも避けるか。
相手がどの行動を取っても、
頭には問題がない。
完全な必勝法だった。
部下達もそれを承知で追撃の神導術を練る。
動きを予測して逃げ道を塞ぐ為だ。
すると男は、不思議な行動を取る。
慌てる様子も無く、鷹揚に手を振ったのだ。
迎撃でも防御でもない行動。
羽虫を振り払う程度の動作で、
だからどうしたと言うほか無い。
しかし、頭は目を丸くする。
《土槍連》の勢いが見る見る失速していったからだ。
「(おい、どうなってるんだ!)」
心の中で叫ぶ声が届いたのか、
まるで頭の驚きに応えるように
部下達の攻撃も同様に失速する。
次の指示を出そうとした矢先、
部下達が次々と沈黙していった。
散発的な短い呻き声の正体は、
彼達の最後の抵抗だろう。
「おいおい、山賊とは恐れ入るな。
今時、流行らんだろう」
声の主はオズマットだった。
ゆっくりと歩きながら、近づいてくる。
頭は直ぐに次の術を練る。ところが、
いくらやっても次の術式を
練り上げる事が出来ない。
それでも無理やり、術式を唱える。
「《土煙瀑》」
けれど、何も起こらない。
「悪いな。そりゃ無理だ」
「てめえ、何をしやがった!」
「言うわけ無いだろう」
頭が得物を抜く。まだ、判別は出来ないが、
かなり特殊な術式の使い手だと踏んだ。
それならば、反対に正攻法で攻めるのが
常道だろう。
「切り替えが早いな。
あんたタダの山賊じゃないだろう。
誰の差し金だ?」
「言うわけ無いだろう」
「それもそうか」
その時突如としてオズマットの影がぶれた。
「なら、遠慮なく行くぜ
《滞縛》」
その術式を聞いて、頭は固まった。
相手の正体に心当たりがあったからだ。
「てめ、まさか! 《不全》のオズ」
「当たりだ」
頭が危険を認識するよりも前に、
オズマットの攻撃がその意識を刈り取る。




