SOS .031 尾行
シルビアはフランドルの跡をつける。
ただ、相手は戦術ギルドの幹部候補だ。
中途半端な尾行技術では
逆に怪しまれると思ったシルビアは、
見た目を適度に取り繕い、
敢えて至近距離でついて行く。
フランドルの性格などを考慮すれば、
彼がシルビアの存在を認識しているかどうかは怪しい。
シルビアはフランドルを知っているが、
フランドルはシルビアを知らない可能性が高かった。
それにもしバレたところで、
フランドル様にお近づきになりたい
ギルドの新人職員を装えば何とかなるとも考えた。
想像で吐き気を催すが、
四の五のは言っていられない。
自分自身の演技力や普段の人間関係を棚に上げ、
シルビアは気配を殺しながら背後にぴったりとくっつく。
怪しい繁華街に進んでいくフランドル。
シルビアが声を掛けられる頻度も上がり、
ばれているのではないかと内心ひやひやしながら
何とか目的地までついて行く。
そこは一見、普通の酒場に見えた。
男性が入るいわゆるそういうお店では無く、
シルビアはほっとする。
フランドルは店に入った途端、
給仕の男に何かを言った。
その後、給仕の男はすぐに舞い戻って、
彼を奥へと案内する。
一瞬入ろうか迷ったシルビアだが、
これ以上ついて行くことは現実的に難しく、
一旦引き返そうか迷う。
「おお、何と見目麗しい女性か。
どうでしょう、私にいくばくかのお時間を
下賜いただけないでしょうか?」
その時、背後から急に声を掛けられた。
いかにも遊んでいそうな、
軽い雰囲気の青年が立っている。
青年がそのままいい加減な
おべんちゃらを口にしているが、
シルビアは聞いてすらいない。
ただ、一人で待つより、
違和感はないはずだとも考える。
誘われて入るとすれば、
一人でふらりと入るよりずっと自然に思えた。
フランドルの行動を
もう少し確認したいと思ったシルビアは
その青年と一緒に時間を潰すことを了承した。
「おお、女神よ」
心の中で「はいはい」と思いながら、
シルビアは出入り口の良く見える席へと座る。
「今日は僕がおごります。
この店のとっておきがあるんですよ。
常連にしか出さないやつ。いかがですか?」
青年の言葉を適当に流しながら、
シルビアは注視し続けた。
けれど、まてどもフランドルは姿を見せない。
店の奥へと入ったきりだ。
一通り料理を食べ終え
仕方なく、シルビアは
仕切りなおすことにした。
「おや、お帰りですか」
無理に引き留めるようなら
腕ずくで帰るつもりだったシルビアは
相手の出方を見る。
「それでは、大通りまでお送りしましょう」
意外にも紳士的だったため、
シルビアは拍子抜けする。
何というか、普通はこういう時
無理やりな引き留めがあったりとか、
強引な口説き方があったりとかするものと
勝手に想像していたが、
実際はそうでもないらしい。
「良ければ、今度あなたに出会えそうな
街のお店でもひとつ、教えていただければ
これほど嬉しいことはないですね」
シルビアはちょっとだけ考えて、
細工師のおじさんの工房を教えた。
青年の口元が若干ひくついたのを
シルビアは見逃さなかった。




