SOS .030 懸念
オズマットが短距離通信に気付く。
入口のピースからの緊急通知だ。
言葉などではなく予め決められていた
暗号のような簡潔な符号が来るだけの代物だが
それでもかなり重宝する。
「どうしました」
サティがオズマットの変化に気付き、探索の手を止める。
「いや、ピースから『侵入者』の報告が来た」
「あの人は本っ当に…」
サティが溜息交じりに首を振った。
「オズマット教務官」
「はい?」
「この際、聞いておきたいのですが、
どうしてあんな人を自由にさせているんですか?」
その言葉には言外な意味が多分に含まれていた。
それを感じ、オズマットは一応真剣に答えることにした。
「奴は優秀で有能だ。
ちょっと邪魔っけな紐がくっついてるだけだよ」
「それは大したことあるんじゃないですか」
サティの言っていることは分かる。
「まあな、でもそういう連中も
俺たちみたいな組織には必要なんだよ」
「意味わかりません」
「まあ、お前さんが俺の上司になるころには
それがわかるんじゃないか?」
からかわれたと思ったサティはふくれっ面になり、
再び探索へと戻った。
とはいえ侵入者程度で驚いてもいないあたり、
サティもいっぱしの職員だなとオズマットは思った。
「あれ?」
そこでサティが何かを見つけた。
「教務官、あちらを」
「どうした?」
「通路が塞がれています」
近くへ行くと、天井の岩盤が崩落していた。
自然発生的なものでは無く、人為的な崩落だった。
「これ」
「ん、シルビアの武具の…破片か?」
見覚えのある白銀の金属片だ。
「…ここで、何かと対峙したわけですか」
「となると《洞蜘蛛》か。ただ、ここらで生きている気配も
ましてや死んでいる気配もないな。
足止めをしただけなのか?」
サティはどうも納得できない様子で、
しきりに考え込んでいる。
シルビアとサティは方向性が違うものの、
二人とも真面目で博識だ。
冒険者ギルド職員には珍しい、
常に頭で考える種類の者たちだ。
だからこそ、サティには
この状況に違和感を感じるのかも知れない。
オズマットはその答えが出るのを待たずに、
自分なりの解答を模索していた。
理論的な答えを導き出すことは容易では無いが、
ある単純明快な答えは既に思い浮かんでいる。
「教務官、何かいいお考えでも?」
「うん? いやまあ、そんな大したことじゃない」
オズマットは無精ひげを撫でながら答える。
「《洞穴》が誰かの意志で成り立っていたのは確実だ。
そしてこの瞬間に侵入者があったわけだろう。
直感だが、侵入者たちは問題の黒幕と何らかの形で
繋がっていると思う」
「となると」
「じっくり
話を聞けば、何か判るんじゃねえかな?」
「えと、つまり?」
追い詰められた兎のふりして、
猟犬を捕まえるということだった。




