SOS .028 融合化
頭の理解も心の準備も出来ないまま、
言われる通りに両手を合わせる膳。
仏壇に拝んでいるような格好だ。
『この世界には精霊の力が満ちている、
それは神によって真理へと導かれる力そのもの、
すなわち神導力と呼ばれるものです』
カイケンの声が耳を打つ。
『神導力とは自分の意思により起こる力であり、
神の意志により強められる力である』
ソアラは膳の様子が次第に変わっていくことに気が付かない。
いまは主の相手で手一杯なのだ。
『あなたがまず知るべきは、自分自身のことです。
あなたはもう、以前のあなたとは違う存在なのです。
そう、あなたは正しく生まれ変わったのですから』
膳の脳に、カイケンの言葉が染み入ってくる。
『この世界に生まれなおしたあなたは、
すでにこの世界の住人なのです。
感じますでしょう?
今まで触れたことのない新しい感覚を』
膳の視界が徐々に開く。
それは物理的な視界とは違う、
精神的な風景だ。
見えるわけでは無いが、
確かに視える。
『融合とはつまり、混じり合うイメージそのもの。
赤と青が混ざって紫になるように。
水と土が混ざって泥になるように。
存在そのものの在り様を一つにすることです。
さあどうぞ、意識を合わせて』
カイケンの言葉に導かれるよう、
膳の意識も混ざり合う。
誰に教えられるわけでもなく、
膳の内面、いやそれよりもずっと深い
奥底からせり上がってきた言葉は、
カイケンの声と混ざり合って一つになった。
『《融合化》』
次の瞬間、ソアラの頭の中へと
膨大な情報が流れ込んでくる。
雨水が山頂に降り注ぎ、
地面から地下へと流れ込む。
水の流れは一つとなり、
やがて大きな水脈となり
一本の道となる。
そんな情景を彷彿とさせる情報の渦だ。
恐怖心もどこかへ行き、冷静に術を練る。
ソアラは口頭での発話術式と
脳内での無音術式を並列起動させる。
以前のソアラでは不可能な高度術式だ。
「《破陣》(《凍霧》)」
まずは手足を縛る蔦を払い、主の体から出る
体液を凝固させる。
蔦は空気中などからも水分を得るが、
緊急時には宿主の体液を摂取するからだ。
「《獄圏》」
次に炎では無く、限定的な高熱空間で主ごと
蔦を焼き尽くす。
山への延焼を避ける為だ。
主の耐熱性であれば、この程度では討伐出来ない。
「《震位》(《零圏》)」
それをわかった上で、ソアラは興奮する主の
足元を液状化させ足止めするとともに
先ほどとは逆に低温空間を発生させる。
これで主が死ぬことは無い。
ただ、一つの効果として
冬眠状態を誘発することが出来る。
ゆっくりとその巨体を落ち着かせる様子を
見ながら、カイケンは呟いた。
『理想的な対処方ですね。
討伐すれば、生態系も
狂っちゃいますから』
呆ける膳をよそに、カイケンは遠くを見ていた。
『あっちの方は大丈夫でしょうかね』




