SOS 247 試供品
ゼンが王都の主門まで来ると、
衛兵がすぐさまやってきた。
その時のシルビアとソアラはまるで
貴族令嬢のような装いで、
一見して普通の身分でないことは明白であった。
故に、特に混乱などは起きず、
ゼンとシルビアとソアラは三人で副門まで案内され
そのまま王都の中へと入っていった。
「いや~。大変助かりました。
もしお忍びで来られていれば
うちで確認するのに時間がかかってしまいましたから」
柔和な笑みを浮かべる衛兵長は丁寧な物腰で
三人を接待する。
特別扱いとは言え、手続きや確認などで
ある程度の時間を掛けるのは当然だった。
人によってはこういう事で
へそを曲げたり暴れたり、無理難題をふっかける
貴族もいるので、応対はそれなりの
立場の者が行うことが一般的だ。
シルビアはミラルダが無理矢理着せた服に
文句の一つでも言いたかったが、
このことを見越していたのであれば
シルビアの完敗と言えた。
「そんなに服装が大事なのですか?」
ゼンが衛兵長に聞く。
「ええ。それだけで余計な揉め事の
大半は抑制出来ます。
荒くれ者だって、危ない橋を渡るのは
余程の時だけですから。
我々にとっても有り難いことなんですよ」
「なるほど、言われてみれば
そうですね」
「そういえばお父様も
同じような事を言ってました」
ソアラが相槌を打つ。
「ご理解頂けたようで何よりです。
今しばらくお待ちいただければ、
エルダナリヤ様のお屋敷まで
足をご用意させて頂きます」
衛兵長は三人とも放置して
問題ないと考えたらしく、
席を立つために腰を上げた。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
ゼンが珍しく能動的に声を掛ける。
「はい、何で御座いましょうか?」
「衛兵長さんには奥様はいらっしゃいますか?」
「……ええ、まあ、この通りですが」
衛兵長は左手の薬指にある指輪を見せた。
暗に結婚をしているという意味だろう。
「よろしければ、ベゲッド商会に納める予定の商品があるのですが
奥様に感想をお聞き願えますか」
「え、ええっと?」
衛兵長は困惑しながら、ゼンの取り出してきた物体を
凝視した。それは、小瓶に入った液体だった。
「美容液、というものです。
裏面に使用方法が書いておりますので
よろしければどうぞ」
衛兵長がまじまじとそれを見る。
なんとなく言っている意味は理解出来たが
これがどれほどの価値のあるものなのか
全く見当が付いていない様子だった。
「試供品と思っていただければ結構です。
また帰りの際に、感想など教えていただければ幸いです」
「あ、ああ。なるほど。畏まりました。
よろしいんですか? 結構お高そうな感じですけれど……」
「原価はそれほどではありません。
ちょっとした手間がかかっているだけです」
ちょっとした、ねえ?
シルビアが何か言いたげにしていたが、
それを口にするほど野暮ではない。
衛兵長が部屋を出て行くまで
黙ってその推移を見守っていた。
「……」
無言の空気が流れる。
普段、別に仲が悪いというわけではないが
微妙な空気が三人の間に流れていた。
シルビアはゼンに言いたいことがあるようだが、
それを言いあぐねているようにも見えた。
ゼンはゼンで、心ここにあらずといった風に
黙って一人で考え事をしている。
「ねえ、ちょっといいかな?」
そんな中、ソアラが二人に声を掛けた。
「もうちょっと、言いたいこと、
言った方が良いんじゃないかな?」
「……ん? あたしに言ってる」
シルビアがわざとらしくソアラを睨み付ける。
「うん、シルビアちゃんもだけど、
ゼンくんもかな」
「……」
「ゼンくんは、いま何を考えているの?」




