SOS 246 一剣
エルダナリヤ家は四聖貴族の一剣であり、
東の柱を守護する存在だ。
柱というのは表現であり、
それは東方を治める領主という意味合いである。
かの貴族家はウルメリアという国の歴史において
何度もその名前が登場する家で、
現在も大きな実権を持つ一族だ。
しかし、現当主である
エルダナリヤ・ファーガソンは
現状に危機感を募らせている。
百年の平和の代償に、
四聖貴族はもとより、殆どの者が
いわゆる戦争を知らずに過ごしてきた。
もちろん、獣害や小競り合いに近い諍いは
日常茶飯事だが、大きな戦争という意味では
最早歴史の教科書に載っている文献を漁るぐらいしか
当時の状況を検分する術はない。
そんな文明の変化により、昔は腕力で幅をきかせていた
連中は野盗や賊に落ち、代わりに学のある者や、
金勘定が得意な者が権力を持つ時代に変わってきた。
ファーガソン自身、学が無い訳ではないが
ギルドの中枢にいる者達の顔ぶれを思い出すにつけ、
現状の四聖貴族制度そのものが危うくなっていると
危ぶんでいる。
彼らは非常に機微に聡く、時流を読むことに長けている。
新しい技術や方式を即座に取り込み、またそれを
改良することにかけては類を見ない。
それは年齢だけでは説明が付かないことだ。
まるで誰かがあつらえたように、同じような思考を持つ者たちが
次々と先代のグランドマスターの座を奪い
その席に収まりつつある。
誰かが糸を引いている。
問題は、それが誰なのか、
見当もつかないことだ。
放った刺客も、手繰り寄せた情報も
彼らの背後にいる人物には届かない。
「お父様、いかがなされましたか?」
跡継ぎ息子であるフィリップが声を掛けた。
自分よりも母親に似た顔だちの息子をファーガソンは一瞥する。
この息子は愚か者でも臆病者でもない、けれど
賢者でも勇者でもなかった。
当主としての条件は満たしている。
人並み以上の知識と技能、そして
他人と足並みを揃え、協調することも不得意では無い。
家を継ぐ者としては悪くないが、
もし、この国に何か有事でもあれば
フィリップではエルダナリヤ家を守ることが出来ないかもしれない。
フィリップは、そういう人物だった。
「いや、例の子供のことが気になってな。
先王の隠し子ということだが、その噂の出どころも
やや怪しいからな。話は半分程度に聞いておいた方が
よいかもしれん。ただ……」
「ただ、何でしょう?」
ファーガソンは大きな顎髭を撫でつけながら、
ぼそりとフィリップにだけ聞こえるように言う。
「もし、ガーファングルが噛んでくるとなれば、
少し厄介なことになる」
「それはどういう……?」
「奴らは、三国間の休戦協定と同盟を破棄する可能性がある。
そのきっかけに、その子供が使われる可能性も無いわけでは無い」
フィリップは息を吞む。
それは、つまりは戦争状態の再開を意味していたからだ。




