SOS 239 新理
ファティマとペルシーのそれは攻防一体の合わせ技だ。
咄嗟に使用したのは、その技が彼女達の中で
一番勝率の高い技だったからとも言えるだろう。
「《鑑凝》」
シルビアは指輪を介して術式を発動させる。
その術式は鑑定や分析をするもので、
術自体は特異なものではない。
ただ、その精度と練度が
通常の閾値を超えたものであったことが
ゼンの指輪を媒介とさせた効能であった。
「(……コレがあいつらの本質ね)」
シルビアは次の手を読んでいく。
まだ納得し切ったわけでは無いが、
白雪の助言に従った結果だろう、以前のままでは
勝つことなど不可能と思えるファティマとペルシー相手に
勝ち筋が明確に見えてくる。
『シルビアお嬢様。神導術の理をご存知ですよね』
『……馬鹿にしてる? これでも首席卒業よ』
かつての白雪との問答が脳裏を過る。
「《伽焔》」
「《巌冰》」
ファティマとペルシーの攻撃は一見して
大規模な炎術系と氷術系の合体技に見える。
頑健な氷壁で二人を守り、その周囲で旋回する炎の柱が
二人以外の敵対者を屠るものであり、
かつてのシルビアとソアラであれば防御すら難しい大技だ。
シルビアが先ほど量産した完全幻術も、
その熱量と力圧で吹き飛ばされ
端から消滅霧散していく。
『では、念の為お教えいただけますか?』
『……神の意志を賜るためには、三つの過程が存在する。
新しき理に目覚め、真なる理に到達する。そして、
最後に神の理に触れることを許される』
しかし、そんなことは想定内だ。
幻術など、しょせん幻術でしかない。
注意を逸らす為の時間稼ぎに過ぎない。
ソアラは既にファティマもペルシーも、
味方のシルビアでさえ
その意識からは外れていた。
相手の術式も度外視で、単純に自分の拳に込めた神導力を
ぎりぎりまで押し込めてそのまま真っすぐ放出する。
いくら氷壁が分厚かろうが、
いまのソアラの攻撃力が通らないはずはなく、
一瞬で溶解するのは火を見るより明らかだった。
『その通り、では、理とはなんでしょうか』
『……はい?』
ファティマとペルシーが手ごわいのは、
自分たちの決め技でさえ、見せ技として
躊躇いなく使用できるところだ。
フォン、と空間を圧搾する音が聞こえたかと思うと、
ソアラは自分の拳で創り出した破壊の息吹を吐き出していた。
予想通り、ファティマとペルシーを守る
氷壁は一瞬も耐えられず消失する。
しかし、既にその氷壁の向こうに二人は存在して居なかった。
『理とは本質。即ちその術者を形作る、
最初の火種です。
神導術が万能では無いと言われるのは、
そこに原因があります。
術士は己の理から外れることが出来ないのですから』
ファティマとペルシーは身体強化で加速していた。
広い部屋を左右に迂回するような動きで、
しかし、その速さは目で追えないほど素早く。
ソアラの意識が二人を見失ったと理解するよりも先に
ファティマとペルシーはソアラの側面から
猛烈な攻撃を加え始める。
その音は豪雷が立て続けに落ちたような激しさだ。
同時に、炎柱が旋回しながらシルビアへと向かう。
ファティマとペルシーの保有している神導力は
ほぼ半減していたが、二人はソアラの馬鹿げた力に
弾数制限があり、永続するものではないと
経験則的に読んでいた。
そしてシルビアの術式も、支援系と見て、
多少の被弾は折り込み済みでの特攻を仕掛けたのだ。
「(……その勘違いを正してあげてもいいけど)」
ソアラが防戦一方になり亀のように縮こまる。
左右からの連撃に圧されているように見える
その様にファティマとペルシーは自分達の勝利を
確信する。
シルビアはその風景を冷静に分析しながら、
二人を追い詰める算段をつけていく。
『相手の理。即ち心理を看破する事で、
ほとんどの神導術は対抗術式を
編み出すことが可能なのですよ』
炎柱がシルビアへ向かってくる。しかし、
シルビアは平然とその炎柱を見つめる。
当たらない攻撃に、脅威など存在しないからだ。
「……面接官が小娘に本気出してんじゃないわよ」
シルビアの瞳が燦然と輝く。




