SOS 238 緻密
もちろん、忘れていたわけでは無い。
ただ単純に、ソアラの攻撃力が常軌を逸しており、
ソアラをただの壁役として捨ておくことが出来ないほど、
状況が傾いていただけだった。
「(どうする?)」
「(無視。サングリッドが主力。
大方陽動でしょ)」
慣れた様子で手話をするファティマとペルシー。
砲台付の移動要塞と化したソアラの
圧倒的存在感が、シルビアへの
過少評価を肯定的なものにする。
「はいはい、わかってますよ」
シルビアは怒らない。侮られて蔑まれるなど
学生時代は日常の光景だった。
それを思い出し、シルビアは初心に返る。
「《羨景――》」
シルビアの構築した術式は、単純かつ初歩的な
幻術を仕掛ける技だ。
ファティマとペルシーもそういう相手は
山ほど見てきた。
士官学校を出たばかりの新人であれば
かなり有効な手段だが、
経験を積んだ猛者に通じる術式ではない。
「(ただの幻術で惑わされるワケが――)」
ファティマはいつもの如く応対するが、
違和感に気がつく。
「(なにこれ、ホントに幻術……?)」
ペルシーも自分の感覚を疑う。
普通の幻術系は感覚器官の一つ、
例えば視覚なら視覚、聴覚なら聴覚へ訴える術式だ。
故に他の器官を働かせれば、看破は容易い。
しかし、シルビアの術式はそういう応対が
全く出来ない代物だった。
なぜなら、五感全てに働きかける
完全な幻術を発動させていたからだ。
「さて、どれが本物でしょうかね?」
シルビアが作り出したのは実在する
短剣だ。その数はおびただしい程で、
ファティマとペルシーの周囲を
完全に埋め尽くしている。
「(ほ、本物は!?)」
「(無理! 見切れない!?)」
ファティマとペルシーは弱くない、
しかし想像を越える事態に、
思考が追いつけなかった。
そして、シルビアの術式射程内で
相棒であるソアラは次の弾を充填している。
さっきの攻撃よりも、堅く、強く、速く。
「《強化》」
「ただの強化術式……?」
「それがあの威力……?」
ファティマとペルシーに余裕がなくなり、
ついに奥の手を出す。
「《伽焔》」
「《巌冰》」
シルビアが待ってましたとばかりに、
その手にある指輪に意志を込める。
「曝したわね、本性を」
ソアラはシルビアの声など関係無く、
その身に宿した力を拳に集める。
先ほどとは桁違いの暴力的な破拳がふるわれる。




