SOS 235 林
「実は、御二方のことを
少し調べさせて頂きました」
白雪は寝転がったままの二人を
上から見下ろしながら、話を続けた。
「サングリッド家の火薬庫。
ソアラ・サングリッドお嬢様。
キースグランド学院では学位ギリギリで卒業されたそうですね。
他のギルドでも当時の惨状は
伝説的に有名な語り草でした」
ソアラの目が暗くなる。
それは否定とも肯定とも判断出来ない。
「麒麟児。シルビア・セイレンお嬢様。
ノトビア学舎において、学位、武位ともに
まともな神導術を使用できないまま
総合首席での卒業をされたそうですね。
但し、卒業試験で有力者の反感を買い、
神導術ギルドへの入職が出来なくなったと、
御学友から聞き及びました」
シルビアは怒りを目に宿す。
昔の古傷を弄くられたような
不快感が顔に現れる。
「今の御二方の気持ちは僅かに理解できますが、
その事が御二方の成長を
阻んでいるのです」
白雪が右手を差し出す。
「ご存知かもしれませんが、
わたくしは魔獣・紅女郎の因子を植え付けられた
合成体です。もちろん、望んでこうなったわけではありません」
白雪が二人を見る。
その視線には何の感情も見えない。
「わたくしはこの力を使い、今まで生きてきました。
しかし、十全にその力を使えていたわけではありません。
むしろ、ゼン様と出会うまでは、
ほんの十分の一も使いこなせていなかったことでしょう」
白雪はその手を近くの木にかざす。
視認できない細糸がその木を締め付ける。
「それはわたくしが、力を使いながらも
その力を否定し続けていたからです。
こんな力など、自分が求めていたわけではないと」
クン、と手を引くと、ピクリと木が揺らめいた。
白雪はその木に触れ、無造作に持ち上げる。
綺麗な年輪が表れて、木が上下に分割されていた。
「……けれど、紅女郎の因子も、
望んでわたくしに取り込まれたかったわけではないでしょう。
そういう当たり前のことに、つい先日気づかされたのです。
わたくし一人が不幸だと思い、世界を恨んでいる一方で
その原因となっている存在もまた、ともすれば
わたくしを恨んでいるのではないでしょうか」
持ち上げた木を、再び元に戻す。
白雪が手を放すと、木は何事もなかったかのように
そのまま佇んでいた。
「与えられたもの、
与えたもの、
手に入れたかったもの、
入れれなかったもの、
願うもの、
願わないもの。
全てが表裏一体になって、わたくしたちの運命に
揺蕩っているのです。
そしてつまるところ、わたくしはご主人様のために
生きるのであれば、この力を受け入れるべきなのです。
むしろ、この力があればこそ、
わたくしはご主人様に必要とされるのですから」
珍しく饒舌な白雪を見上げながら、
シルビアとソアラは黙って聞いている。
「ソアラお嬢様。小手先の技術などあなたには不要です。
そのような思い違いなど捨ててしまいましょう」
白雪がソアラを見る。
「シルビアお嬢様。あなたは過分な力への憧れなど無意味です。
あなたは、繊細にして洗練。そういう御方なのです」
白雪がシルビアを見る。
「御二方は、お互いに欲するものを相手が持っていることで
ご自分の力の本質を見失っているのです。
……騙されたと思って、わたくしにその身をゆだねていただけますか?」
シルビアとソアラはどちらともなく頷いた。




