SOS 230 シュリとシュラ3
「ふざけやがって!」
「ってえ、くそがっ!」
再起不能とまではいかない程度の傷を負わされた
二人組の男は、悪態を吐きながら得物を拾い上げると、
背中を向けて逃げていった。
襲撃の直後であり、逃げる相手の背中を見ている状況。
正しく緊張の糸が切れた瞬間をその男は見逃さなかった。
「終わりだ」
長い鏃を向けた先にはシュリが居た。
シュリを狙ったことに特別意味があったわけではない、
ただ単純に、どちらかといえば撃ちやすい位置にいたシュリに
最初の狙いを定めただけの話だった。
クン、と手を引き、そして放つ。
特別なあつらえをした矢は、
音も無くシュリの後頭部に吸い寄せられる。
じきに、その頭に真っ赤な花が咲くはずだ。
「ん」
しかし、その矢が刺さるほんの一瞬前に、
シュリはその頭を捻り、
僅かに位置をずらすだけでその脅威を躱す。
「!?」
男は驚きのあまり、何度も瞬きをした。
しかし、その放った矢は木造の建物の壁に突き刺さり、
ビィンという音とともに、その役目を終えた。
「……つーか、なんであたし?」
「ムカついたからじゃね?」
男には会話の内容までは聞こえてこないが、
明らかに自分のことが筒抜けだった様子だ。
後悔するより先に、男はその場を離れる。
あの状況で避けるなら
これ以上の追撃は無意味だった。
「(……手練れだな。
読みが甘かった)」
男は背後の追跡に注意しながら、
二人から離れていく。
「(……一回、冷却期間を置くか)」
かなり離れたあと、男は作戦の立て直しを
進める。
まだ、これで負けが決まった訳ではない。
「ちょっとちょっと、余裕だねー兄さん」
しかし、その場に二人の内一人が
現れる。
「(……あれを読んだか、それとも)」
「あたしが当たりだったみたいだな」
男は途中の隠蔽工作で二手に別れるよう
仕向けていた。
もう一つは片割れが追尾したらしい。
「いや、お前がハズレさ」
男は杖を抜く。どうやら術士だったようだ。
「《幻夢》」
男が唱えると、周囲に不可思議な現象が起きた。
相手はキョロキョロと辺りを見回している。
どうやら男の姿を見失ったようだ。
「効果範囲が狭いから、こういう時しか使えないがな」
男は自虐的に笑い、懐から短刀を取り出す。
「じゃあな」
「ざーんねん」
男の言葉に被せるように、女は笑った。
「――がっ!?」
男の背後から攻撃が入る。
背中に刺さったのは円刃だ。
「なぜっ!」
「バカ正直に独りで来たとか言うと思う?
大体、あたしたちは二人で一人だよ」
女は笑った。
「そうだ、兄さん。
折角だから遊ぼうか?
私はシュリとシュラ、どっちだと思う?
当てたら、見逃してあ・げ・る」
女はとても愉しげに妖艶な笑みを浮かべた。




