SOS 211 石
「……それって、何をやっているの?」
ソアラが気になったのはゼンが今行っている作業についてだった。
「……」
無口なことが多いマリンも、その様子が気になっているらしい。
まじまじとゼンの手元を見ている。
「ああ、これは工房主さんに教えて貰った
石細工です。普通の細工とは違って
魔石や神石を繋いで神導具を造ることが
出来るらしいんですよ」
手元にはやや萎びれた金属の木っ端や
大きさも色も形も品質もバラバラな石が置いてある。
買い出しから帰ってきた三人は
今日泊まる宿の一室に集まり、
荷物の振り分けを終えたところだった。
休む間もなく、ゼンが荷物から道具一式を取り出し
手元で細かな作業を始めたのだ。
ゼンとソアラ、マリンの関係は対外的には
ご主人と使用人なのだが、ゼンが生まれた国では
そういう風土がほとんど無く、ソアラに
おおよその立ち振る舞いは教えて貰ったものの
日常の個人的な部分でそうありたいとは思わなかった。
外ではまあ、やや偉そうな振る舞いをして
ソアラとマリンに荷物を持たせていたが、
内心では嫌な気分になっていた。
そういうこともあり、二人には他の人がいないところでは
自分をあまりご主人様扱いしないようにと
お願いしていたのだ。
「ゼン様、器用」
マリンは最近ではゼンのことを名前で呼ぶようになった。
白雪も訂正させないので、すでにその呼び方が馴染み始めている。
「ありがと。ちょっと待ってね。
いま試しに作ってるところだから」
「?」
ゼンの言葉に首を傾げるマリン。その言葉通り、
ゼンの手元が光り輝く。
屑鉄が形を崩し、まるで泡のようにふわふわと舞う、
と思えば、急激にその色を変えて白く変色していく。
炭のような鉄が、雪のように輝きを取り戻す。
そして、用意していた石に触れると、
その石も姿を変えた。
「うわわわ……」
「凄い、綺麗」
ソアラとマリンが驚くのも無理はない。
あの材料から、白金に輝く石付きの指輪が生まれた。
「色を付けただけで、中身はあんまり変わってないですけど」
ちょっと照れくさそうに、ゼンははにかんだ。そして、
その指輪をマリンに渡す。
「はい、どうぞ」
「え? え?」
戸惑うマリンに、その指輪の説明をする。
「実は、親方に細工加工を教えて貰っているときに、
こっそり教えてくれたんです。
シルビアさんの持っていた武器? えっと、《神鉄如意》でしたか。
それを作った人が得意にしていたのが
神導具への特性付与だったらしいんです」
「……つまり、それが特性付与された神導具ってこと?
もうそんなの作れちゃうの? ゼン君ってば」
あまりそういうことに興味の薄いソアラも
その事実には驚きを禁じ得なかった。
神導具の特性付与は、最終的に工房主が行うような仕事だ。
看板を持って初めて出来る匠の技術だ。
「いや、そんな大層なものではなくて、
いまは石の力を繋げただけです。
でも、これが上手くなれば、シルビアさんの武器も
元に戻せるかなって」
「どういうことですか?」
マリンが聞いてくる。
「ああ、シルビアちゃんの武器。壊れちゃったもんね。
修理代を稼ぐのが大変だって言ってたし」
ソアラが代わりに答えた。
いま、シルビアは職員の仕事以外も掛け持ちをしながら
武器の修理のための費用を捻出していた。
もっとも、それでも最終的に元通りにするには
元の製作者である流浪の天才細工師を探すという必要もあるのだが
それはまあ、嘆いても仕方ないことだった。
熟練工に頼めば、元通りとはいかなくてもある程度使えるほどには
元に戻してくれる。シルビアはそれを目標に
仕事を目一杯抱え込んでいた。
「で、その指輪はどういう効果があるの?」
「ああ、マリンさんは水の中にいる時が
一番好きだって言ってたので、それを作り出せるようなものを
造れないかなって」
「えっと、それってどういう?」
「あーっと、そうですね。まあ、言うより試した方が早いかな。
マリンさん。ちょっとやってみて欲しいんですが。
起想と言葉を唱えて、
水の中にいる風景を想像して見て下さい」
「? えっと……起想」
ふぃん、と僅かな音が鳴り、
マリンの周りの空気が揺らぐ。
そして、
ドプワァー! という擬音語とともに、
借りている部屋は海水に満たされた。
止める間もなく、窓からは大瀑布のような海水があふれ出る。
宿屋の三階から大放出された海水は運よく全て
裏を流れる用水路に流れたのだが、急激な水量の増加で
一時現場は騒然となった。
結局、被害を出した金額を弁償することで合意し、
こと無きを得たのだが、事の顛末を後で聞かされたシルビアに
ゼンとソアラ、そしてマリンはこっぴどく叱られたのだった。




