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210/253

SOS 210 理由

「……そういえば、白雪さん」

「はい。何でございましょう。

シルビアお嬢様」


 シルビアが白雪に話し掛けた。

白雪は当初シルビアに丁寧な言葉は

不要と伝えたが、シルビアがその申し出を

拒否したため、今のような形になった。


 今は経路の街で買い出しに出ており、

白雪の買い物にシルビアが付き合っている格好だった。


「一応聞くけど、あの他の子達って

大丈夫……なの?」

「反抗という意味では呪をかけているので、

何かすれば直ぐに分かります」

「あー、なるほど。

それもそうだけど、

白雪さんも刺客だった訳でしょう?

……その、大丈夫かなって」

「お優しいですね。

もちろん、そういう事態も含めて、

下準備は整えております」


 シルビアはソアラと違い楽観主義ではない。

どちらかといえばその反対だ。

 だからソアラと違って素直に

白雪を受け入れた訳ではない。

しかし、彼女の尋常ではないゼンへの忠誠を見て、

ある意味で白雪のことを信頼していた。


 偉そうに言えば、ゼンが白雪にとっての

かけがえのない居場所と

なっていることは確かだったからだ。


「それはそうと、ゼンの稼ぎって

どの位なの?

一応、体裁上みんな給仕として

雇われているわけでしょ?

その……足りるの?」

「そうですね。国からの手当金が

およそこの位ですか」


 白雪は手で数字を示す。

ギルド職員がよく使用する暗号のような

符丁だった。


「そこそこあるわね……。

でもキツくない? あ、細工工房の稼ぎもあるか」

「今のところ、それはこの位ですね」


 シルビアの頬がピクピクする。

思ったよりも高給取りだったようだ。


「へ、へえー……

でも、それでも余裕は無さそうよね」

「はい。ですので、足りない分みなさんには

仕事を斡旋することで賄っております」

「仕事を、斡旋?」


 白雪はシルビアを見つめる。女性のシルビアでさえ

うっ、と息が詰まるような美しい瞳がシルビアを捕らえる。


「シルビアお嬢様。この世界では得ることが難しいものがあります。

その最たるものの一つが『身分』なのです」

「身分……。貴族とか、王族とか?」

「そこまでではなくとも、普通とはなれない者たちが

この世界には多く存在しているのです。

わたくしが彼女達のみを敢えて生かしたのは、理由があります」


 でしょうね。とシルビアは思った。


「一つは、彼女たちが平均よりも強いことです。

一定の水準を超えた強さというのは、

この世界で生きるにあたって必要不可欠なものです。

そしてもう一つは、

彼女たちはその状況に溺れていないということです」

「溺れる?」

「ええ。ともすれば勘違いしてしまう状況で

彼女たちの本質はいわゆる『普通』を求めていました。

それが大事なのです」


 シルビアはその表情をまじまじと見た。

白雪がどのような人生を歩んできたのか、

シルビアには見当もつかなかったが、

その言葉は嘘偽りのない本音と思えた。


「……強いわね、あなた」

「ご主人様ほどではありません」

「そう言い切れるところがね」


 シルビアは嘆息した。そして、こう付け加える。


「……でも、宿でのそういうことは禁止ね」

「はて? そういうこととは?」

「前の、その、お風呂みたいなこと」

「では、カルマリに戻ってから再開することといたします」

「ダメだって言ってんでしょ! 不純よ! 不純!」

「私はご主人様が求められるのであれば、いかようにも」

「むきー! てゆーか、マリンちゃんに至っては

まだ十歳ぐらいじゃないの? ダメじゃない! 変態じゃない!」

「マリンはああ見えて私より年上ですが」

「んなっ!? え? じゃああたしより上?」


 この日一番の驚きを表し、シルビアと白雪は今晩の宿へと戻っていく。



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