SOS .021 カイケン
「あぶなっ…!」
大狸が黒ずくめに
猛然と食らいつく。
丸呑み出来そうなぐらい、
大きな顎を目一杯に広げていた。
『ごめんね』
その太い牙が刺さる瞬間。
まるで冗談のように大狸の体が宙に舞った。
目算で2.3メートルほど、
ゆっくりと仰向け回転しながら地面に落下する。
膳にはなんだがスローモーションに思えた光景だが、
大狸が接地する際に起きた地響きの凄さで
その衝撃の程が理解出来た。
膳には見えもしなかったが、
実際は黒ずくめの人物が右腕一本で
大狸の下顎を無造作に掴み、
そのまま上へと放り投げたのだ。
膳は放心してそのまま動けずにいる。
『さてゼンくん。
あなたには選択肢があるそうですよ』
「え……に、日本語?」
その時、膳は初めて相手の言葉が自分の
慣れ親しんだ言葉だと分かった。
『金髪美少女と銀髪美少女に囲まれ
楽しい異世界生活を楽しむ。
但し、言葉は通じない』
そう言いながら、指を一本立てる。
「え…?」
『あるいは、得体の知れない我々と一緒に、
世界が良くなったり、または
悪くなったりすることをする。
でも言葉は通じる』
そして指がもう一本。
『さあ、どちらを選びますか?』
「え、え? 待って。え?
なにこれ、何かのドッキリ? 撮影?」
『制限時間は
彼女が追いつくまでです』
「え? ちょっと待って。
なに? 彼女って誰?」
『ソアラ・サングリッド
戦術ギルド副司令官である、
アイオリス・サングリッドの末娘です』
何の事やらぽかんとする膳。
その時、逃げてきた山小屋の方角から、
女性の叫び声が聞こえてきた。
『ほら、あの声の主。
さっきの金髪美少女がソアラです』
「え? どういうこと?
ここ日本でしょ?」
『えーもう、めんど…』
段々やる気を無くしていく黒ずくめ。
声は変な調整機械音のようで性別はわからないが、
同級生の性悪女を思い出した。
聞こえるか聞こえないかぐらいの
軽い舌打ちも聞こえてくる。
「あ、いえ! すいません!
はい、聞きます! 受け入れます!」
膳はあっさり順応する事を選び、
とりあえず逆らわないことにする。
『で、どっちを選ぶんですか?』
もうやる気はゼロらしく
黒ずくめは近くの岩に腰を下ろしていた。
「え、それはその…」
膳は一瞬で頭をフル回転させ、
第三の手を思いつく。
「こ、こういうのはどうでしょうか!」
『はい?』
その後、黒ずくめは膳の提案を聞いて、
呆れた声を出す。
『何と言うか、大したものですね…』
しかし、それ以上は小言を言わず、
黒ずくめはすっと立ち上がった。
『あ、そうそう。申し遅れました
私の名前は《カイケン》です。
一応覚えておいて下さい』
「カ、カイケンさん」
『そうそう、因みに字はこう書きます。
怪しの剣と書いて、怪剣です。
犬のケンじゃ無いですよ』
「えと、漢字? どうして?」
『ま、いずれわかりますよ。いずれね』




