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SOS 206 入浴3

「ご主人様。よろしければ順番に

名前も付けていただけますでしょうか。

呼び名があれば、

ご主人様もお使いやすいと思いますので」


 白雪は全員の名前を知らない、

というよりも敢えて聞いていない。

 このような刺客連中が名乗る名前など、

記号以上の意味はないからだ。


「ほいほーい! じゃああたしから!」


 獣人族の少女が手を挙げる。

 しなやかな肉体は猫のようで、

身体付きは一番優れていた。

 おそらく獣人族の中で白虎属に位置する

その体毛は銀色で、艶やかな毛並みをしていた。


 身体能力は図抜けており、腕力も強い。

強さをほとんど術式に頼らないため、

近場に置く護衛としては

とても使い勝手のよい存在だと白雪は評する。


 その瞳は金色に輝いている。

それはまるで金の鈴のような色だ。


「では、『ベル』さんでいかがでしょう」


「おー、悪くない! 気に入った……です!」


 白雪に睨まれて言葉遣いを訂正する。


「んじゃ、早速一発やろ……やりますです!」


 しかし、ゼンがどこからか丸いフワフワした球体を

生成する。言うなれば触れることの出来るシャボン玉だ。


「??? な、何、それ!」


 ベルは思わず凝視する。


「どうぞ、あちらの浴槽が空いてますよ?」


 そのフワフワまるまるの物体が

どんどんその浴槽に溜まっている。


「ほら、ふわふわもちもち、

コロコロで楽しいですよ」


 ベルは吸い寄せられるように別の浴室に入っていく。

その後に聞こえてきたのは

歓喜に満ちた野生の雄たけびだった。


「……まず一人ですか」


 白雪がニヤリと笑う。


「……あの子ははおつむが最弱です。

今回の頭数にはもともと入っていませんよ」

「そうそう」

「ほんとそう」


 残された少女たちが口々にベルを罵った。


「次はあたしが。

まあ、これで終わりですがね」


 そう言って、地人族の娘が髪をかき上げる。

 プロポーションはともかく、

全てが美しく整っている娘だ。

偉そうに言うだけはあり、

肌は白く透き通り髪も美しい金色。

瞳は碧く澄んでおり、絶世の美女と表現しても

誇張表現では無いだろう。


「おーっと! 足が滑った!」


 えらく古典的な言い回しで、

少女はゼンに取り付く。

もともとゼンの見た目が

自分の好みと非常に合致していたこともあり

既に勝負とか関係なく

欲にまみれた劣情がダダ漏れになっている。


「ふふふふ、若い身体で、どこまで我慢出来ますかね。

ほらほら、我慢しなくていいんですよ?

お姉さんに身を委ねなさい。この世のものとは思えない

天国に誘ってあげましょう」


 光人族の双子がドン引きするのも構わず、

地人族の少女はゼンをいじくりまわす。


「そうそう、

向こうの浴槽にある薬湯なんですが」


「ふっ、あたしに

あのバカ虎と同じ手は通用しませんよ」


「入ると、胸が大きくなる効能があるんです。

今日限定の薬湯ですけど」


 ぴたりと手が止まる。


「親方に面白い薬草を貰ったんで、

試しに作ってみたんです。

でも時間限定なので、

早めに入らないと効果が消えますが」


 地人族は森や自然に住まう種族で

自然の恵みである薬草類に目がない。

 ゼンの説明に興味をひかれるのは

とても自然な流れであった。


「……ふう、やれやれ、仕方ない。

戦略的撤退をしましょうか」


「とりあえず、

呼び名は『ソフィア』さんでいいですか?」


 返事はなく、ソフィアはさっさとその薬湯に向かう。

効果のほどはともかく、機を見て敏な女なのだ。


「二人目」


「あいつもアホじゃん」

「つーか、気にしてたんかい」


 白雪の言葉を受け、

光人族の双子が呆れた声を出す。

地人族は森の聖者と呼ばれるが、

あれは完全に「性者」というべきだった。



「ま、本命のうちらが居れば楽勝だけど」

「そうそう、2対1は男の夢だからね」

「つーわけで、ご主人様。よろしくねー」


 光人族の女の子二人がゼンに近づく。

その表情は自身満々である。

 確かに、最初の二人に比べれば

飛びぬけて身体つきが良いわけでも、

飛びぬけて美しいわけでもない。


 ただ、それでも「いい女」

感のある雰囲気を纏っており

何というかギリギリ手の届きそうな

高嶺の花的な魅力を持っていた。


 二人ともが街で一番人気のある看板娘、

といった感じだ。


「あたしらに隙は無いぜ」

「そうそう、逃げられないよー」


 白雪を手こずらせる程ではないが

彼女達の連携には目を見張るモノがあった。

 それに、最新の技術や事情にも詳しい。


「そう言えば、美味しいお酒が手に入ったんですよ」


 途端に、二人の足取りが止まる。


「東の国の名産で、

米から醸造したお酒なのですが、

幻のお酒らしくほとんど市場に出回らないと

いうことなんです」


「……」

「……」


「熱燗で一杯、ご用意していますが」


「うん、降参」

「で、どこなの?」

「あちらの浴室に」


 言うが早いか、双子はその浴室目掛けて

駆けていく。

 彼女達は無類の酒好きだったのだ。


「あっと、名前は『シュリ』と『シュラ』で

良いですか?」


 既に返事は無く、先程のベル以上の

雄叫びが聞こえて来る。

 さすが銘酒といわれるもので

二人はうわばみのように飲み漁った。


「はい撃沈しましたね」

「……」


 海人族の少女が何とも呆けた表情で

白雪の勝利宣言を聞いていた。


「……と言うわけで、

ご主人様は私達には

手を出しません。いや、出さないように

自分を術で縛っている

という方が正しいですかね。

まあ、真面目と言いますか

拘りのある方なのです。

まだ女をご存知でないので、

最初の理想というものもあるやも

しれませんが」


 ところで、と白雪は声を落とす。


「あなたが恐れているのは、

人魚伝説の言い伝えでしょう」


 海人族の少女がビクッと身体を震わせる。


「人魚の血は肌を潤し、

人魚の肉は身体を癒やし、

そして人魚の命は永遠の若さを得る。

でしたか? 馬鹿馬鹿しい伝説ですが

一部、信じる者もいるでしょうからね」


「どう……して?」


 どうして分かったのか、と言いたいのだろう。


「まあ、それはおいおい……とりあえず。

ご主人様、この娘の命があれば

永遠の若さが手に入るそうですよ。

いかがなさいますか?」


 少女はギョッとする。そしてそのまま、

反射的に身構える。


 しかしゼンは、至って普通に

「へえ、それは凄いですね。でも、

あんまりそういうのは話さない方が良いと

思いますよ」

 と言った。


「ご主人様。永遠の若さにご興味は

有りませんか?」

「えっと……大体そういうのはオチが

決まっているというか、

身体が丈夫でも心はどうなるか……

そもそも、永遠に生きるだけなら、

多分、今の僕の能力でも

可能なんじゃないですかね」


 少女が最大級の驚きを表情で表す。


「ご主人様的な表現で言えば、

寄らば大樹の陰、いえ、

井の中の蛙大海を知らず。でしょうか。

とまあ、こちらのお方があなたの

ご主人様ということです。

……安心しましたか?」


「えっと、名前ですよね。

そうですねー、ここはシンプルに

『マリン』でいかがでしょう?」


 暫く呆然としていたマリンは

やがてゆっくりと頷いた。


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