SOS 190 白雪9
シロは子供が親に泣きつくように、
精一杯の懇願をした。
それは本能的なものであり、
抗いようのない恐れだった。
ゼンの術式はシロの中に眠っていた
上位魔種『紅女郎』の因子を掘り返し
自分の能力として完全融合させた。
それにより『子』であるシロはゼンに対し
本能的に逆らえなくなってしまったのだ。
やり過ぎたと思ったゼンは、優しく諭すように
相手に対して接するが、相手は嗚咽と謝罪に
まみれてしまい、名前すらまともに聞くことが
出来なかった。
「(うわー、しまった……
めちゃくちゃ泣いてるよ……)」
涙と鼻水と涎でくちゃくちゃに
なっている顔を拭こうとしたが、
ゼンが少しでも動くと、
相手はこの世の終わりのような
表情をするので、どうしていいか
わからなくなった。
女性と付き合ったこともなければ、
子育ての経験などもちろん無いゼンは
オロオロとするばかりだった。
自分の命が狙われた自覚に乏しいゼンは、
その相手に対して、申し訳ない気持ちで
一杯になった。
相手の服はボロボロで布切れが
集まっただけになっている。
粘糸の拘束が強すぎて、
繊維が耐えられなかったのだ。
にも関わらず、身体には傷一つ無い。
彼女の身体が特別である証拠だ。
そのゼンの視線を感じ、シロは慌てて謝罪する。
「も、申し……りませんっ!
す、すぐに、脱ぎますっ!」
「え? いや、言って無い言って無い!」
ゼンは慌てて押し止めようとするが、
それより早く相手が脱いでしまった。
ボロボロの服は、一瞬でぶち捨てられる。
思わず目を背けるゼンは、そこで目に入った
自分の寝間着を手に取る。
「わ、わかった。わかったから、
これ着て、ね。お願い!」
ビクッと身体を震わせるシロだが、
断ることなどあり得ず、
言われるまま、それを羽織る。
少し落ち着いたものの、まだまともに
話が出来る状態ではない。
ゼンはとりあえず落ち着かせるため
強硬手段に出る。
「そ、その、ごめんなさいっ!」
「ひっ!」
ゼンは相手に抱きついた。
そしてそのまま、相手の身体機能に
干渉する。
「……え……あ……」
脳内から強制的に睡眠誘導する
物質が分泌され、シロは急激な睡魔に襲われる。
その強力な睡魔に抗いきれず。
コテリとシロは眠りに落ちた。
幼子のように、シロはゼンの腕の中で
丸くなる。
すうすうと音を立てる寝息は
とても安らかになっていった。
「(……ハア、やれやれ……
何とか収まった………)」
ゼンはやっと一息ついた。
そこで、反対にシロはがっちりと
ゼンに抱き付くように、
自分の腕をゼンの体に巻き付け始めた。
ゼンはほぼ抱き枕のような状態に
なってしまう。
「(どうしよう………)」
無理やりほどくのも忍びなく、
力が抜けるまでは
大人しくしていようとゼンは思った。
しかし、やっぱりというか何というか、
ゼンはそのまま一緒に眠りに落ちてしまう。
「……ったく、休みだからって
だらだら寝ていたら駄目よ。
休みの時こそ有意義に時間を使わないと。
ほら! 起きなさい! ゼ――――」
自分も寝過ごした事は棚に上げて、
髪が若干跳ねたままのシルビアが
ゼンの寝室に入ってくる。
ソアラは未だに食卓で夢の中だが、
完全に放置してきた。
とまあ。そんなコトより。
シルビアは目の前の状況が
飲み込めないでいた。
ゼンが自分の寝具の上で、
見たことが無い美少女に
自分の寝間着を着せて
お互い抱きつきあっている。
近くにはボロボロになった服
らしきものが落ちていた。
それは事故現場というか事後現場だった。
「えー、もうこんな時間ー?……
シルビアちゃん、ゼンくん……
どした―――の?………」
ソアラが遅ればせながらやってきた。
シルビアは、ソアラに言う。
「ソアラ、鋏持ってきて」
「え? …………ハサミ?」
「とりあえず…………切っときましょう」
シルビアは本気の目をしていた。




