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SOS 189 白雪8

「……――!」


 ゼンが口にした言葉は、何かの術式だった。

発話系の術式であれば、ある程度の効果目測が

つけられる。


 シロぐらいの腕前があれば、

一瞬で見極められた。しかし、その術式は

今まで見たことが無いもので、

見極めるどころか、どういう術式なのかも

判断出来ない。


「ひっ……!」


 突然、シロは胃の奥、いや身体の芯から

せり上がってくるような、悪寒と吐き気に襲われた。

 それは、ゼンの瞳がシロを見据えていたからだ。

ただの瞳ではない、紅く燃えるような赤眼。

 自分と同じ虹彩に、自分とは全く違う、

異質な存在感が宿っている。


 さっきまで凪いでいた海が、突然荒れ狂い、

ちっぽけな木の葉(じぶん)を飲み殺すように、

圧倒的な恐怖が襲いかかってくる。

それはまるで津波の前に独りで立ち尽くす

子供の心境だ。


 自覚するより先に反射的に飛び退こうとする身体は、

既に強靭な粘糸で拘束されてしまっていた。

 自分と同じような、それでいて

強度も練度も全く違う拘束具が

身体の自由を奪った。


「がっ……!」


 千切れても良い覚悟で、シロは身体を無理やり

引き剥がそうと全力を出す。

 しかしそれでも、拘束はびくともしない。


 それどころか、反対に万力のように

ギリギリと締め付けてくる。

 もはや拘束というよりも圧殺に近い。

少しでも気を抜けば、頭から何から、

全てぐちゃぐちゃに潰されてしまうような

締め付けがシロを覆い尽くす。

 

「すっ、すいません。

加減が難しくてっ!

すぐ緩めますからっ!」


 ゼンが慌てて言う。その言葉は

気絶手前のシロには届いておらず、

もちろん反応もへったくれも無い。


 シロは足首と太ももをガチガチに

固定され、両手も背中に張り付いている。

 頭と首と喉は拘束された挙げ句、

荒縄のような極太の糸で自身の

両手首、両足首と繋げられていた。


 天井を仰ぎ見るように、というより

身体をえび反りにたたみ折られるように

拷問に近い拘束がシロをいたぶる。


 一方のゼンはシロの拘束を完全に無効化しており

ハラハラと絹糸がほどけるように

拘束していた粘糸は床へと落ちていく。


「……あ……う……」


 ゼンが慎重に拘束を緩めていくと、

シロは朦朧としながらも、

段々とその瞳の焦点が定まってくる。


「すいません……、

ちょっと動きにくいのは

許して下さい……」

 ゼンは拘束を緩めるが、完全に解くことはしない。


 今は緊急事態なので、真言で言葉を伝える。

予想と対策は考えていたが、さすがに

寝込みを襲われるのは人生で初めてだったので

加減することが出来なかった。


 ゼンはその点を反省しつつ、

刺客として仕向けられたであろう

少女の顔を覗き込む。


 薄暗い部屋でもその瞳は綺麗な輝きを放ち、

恐らくかなりの美人であることもわかった。

 やっぱり、スパイとかそういう人は

美人が多いんだなーと、

ゼンは場違いな感想を持った。


「あの……大丈夫……ですか?」


 ゼンの言葉はシロに聞こえていたが、

シロはその言葉を上手く飲み込めなかった。


 拘束を緩められたシロは、自分の心臓が

早鐘を打つようにガンガンと鳴らされて

いることを理解していた。

 同時に、本能が最大級の警告を発し、

直ぐに逃げ出すよう叫び続けているのも

自覚していた。


 しかしそれでも逃げ出さないのは、

目の前にいる上位存在の気分を

害することだけは出来なかったからだ。


 シロは痛みを知っている。

熱さも冷たさも知っている。

死ぬかも知れない状況も、

運良く死ななかった極限も

運悪く死んでいった理不尽も知っている。


 でも、これは知らない。

ここまで心を折られてもなお、

自害することすら許されないような

恐怖は知らなかった。


 今のシロは「恐怖」を「怖い」としか

表現出来ないほど、心が弱くなっていた。

 ただひたすらに怖く、思わず請うてしまう。

それは、かつて無様と一蹴した懇願の言葉だ。


「お、お許し下さい。

二度と現れません。

何でも話します。

な、何でもします。

どうか、お許し下さい。

お願いします。

ごめんなさい」


 シロはただの子供へと戻った。


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