表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/253

SOS 188 白雪7

 シロは導線をなぞるように、

ゆっくりと家に侵入する。


 誰も動いていない家は、静かで

誰のものでもない印象を与えてくる。


 玄関を抜け、シルビアとソアラのいる

食卓を横切る。

 二人は完全に夢の中で、

起きる気配も無い。


 二階へと上がる階段はしっかりとした造りで、

足を乗せても全く軋まない。

 この家が真新しい証拠だった。


「(……)」


 シロ無言でゼンの寝室へと入る。

 そしてゆっくりと室内を観察する。


 何も無い簡素な部屋だ。住む者の縁など

感じようも無い。まるでふらりと現れた

旅人が素泊まりしているような

寂しい空気しか存在しない。


「(……)」


 ゼンは仰向けに寝ている。

あどけない顔は幼さを残していた。

 その首も腕も体つきも、

荒事などまるでしたことが無いような

柔らかさだ。


 シロはそのまま、ゼンに跨がるようにして

ゆっくりと近付く。

 同時に、手袋を外した両手から

薄くて硬く、強靭な糸を紡ぐ。

 ゼンを刺激しないように、

緩やかに、慎重に、

その糸をまとわりつかせていく。


 腕を封じ、足を絡め、首を固定し

自由を奪う。

 視覚を遮り、口を封じ、

おおきな声を出せなくする。


 それほど長くない時間をかけ、

シロはゼンを完全に捉えた。

 それはもはや、蜘蛛の巣に捕らわれた小虫だ。



 ガーファングル皇国では、三国で唯一

合法化されている実験がある。


 それは、人体と魔獣を掛け合わせ、

《合成体》を造る事だった。


 三国が同盟を組んでからも、

ガーファングルはその実験を続けていた。

 対外的には、治癒不能と判断された、

病気などに対する解決策や、

身体欠損を補う為の新術式として

これを放棄しなかった。


 しかし、実際の運用は、成功した合成体を持って

裏の仕事をさせていることも多い。


 術式防護された建物なども、

彼等のような合成体は、自身の身体能力で

易々と乗り越えられる。

 彼等は存在自体が特別なのだ。



 シロは口の中で唾液を混ぜる。

身体の機能として保持している

《毒素分解》と《再合成》を駆使して

気つけ薬を精製した。


 上位魔種である『紅女郎』の如く、

赤い瞳を揺らめかせ、その精製液を

ゼンの口に流し込む。


「………――う、あ…」

「ごきげんよう。

あなたに聞きたいことがあって、

夜分遅くに失礼しております」


 ねっとりと絡みつくような声で、

シロは相手の反応を待った。


 普通はここで叫び出す。

 突然の事に戸惑い、大抵の者は取り乱す。

どれほど屈強な戦士だろうと

身体と感覚の自由を奪われて、

平常で居られる者などいなかった。

 

 しばらく、ゼンは身動ぎ一つせず、

黙っていた。

 こういう反応も無い訳では無い。


 恐怖で思考が働かない場合だ。


 そして、ゆっくりおずおずと

ゼンは言葉を絞り出す。


「い………」

「はい。何でしょうか?」


 優しく焦らすように、諭すように。

シロはその先を促す。


「《融合化》」


 その瞬間、シロの世界が一変した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ