SOS .019 逃走
心の準備をしていなかったソアラは、
言葉が通じなかったことも忘れ
慌てて相手に話かけ出した。
「わわわ、あれ、どうしよ!
えっと、こ、こんにちわ!
大丈夫? 身体、痛くない?
えっと何? あと何を聞けばいいの?!」
驚いて目を覚ました少年は、
早口で捲し立てる目の前の女性が
何かを怒っているモノと勘違いをして、
寝具から飛び起きた。
同時にソアラが少年の寝そべっていた寝具の
丁度頭に来る部分に手をつく。
勢い余って、つんのめってしまった形だ。
そこで事件が起きる。
ソアラが無意識で力を込めてしまい、
寝具の上部分が綺麗に消し飛んだのだ。
そこで寝そべったままであれば、
間違いなく上半身はおさらばになっているだろう。
少年はそこで、本能的な危険を察知した。
“こ、殺されるぅぅうううう!”
「待って、待って、待ってぇぇええええ!
今のなしでぇぇええええ!」
何とか少年を宥めようと必死に話すが、
言葉の通じない少年がそれを理解出来るわけもなく、
むしろ身振り手振りでおかしな挙動をすればするほど
少年は恐慌に陥るばかりだった。
ソアラも職員の端くれなので、
荒事の経験も対応もあったが、
この場合の相手を無傷で沈静化させるのは、
正直自信が無かった。
なので、ちょっと考えた挙句、
野生動物への対応方法を転用することを思いついた。
「ま、待って待って、分かった、
分かったから落ち着いて。
ちょっと、ちょっとだけ、
外に出るから、ね?
だから、落ち着いてよ!」
ゆっくりと距離を取り
ソアラは一つしかない出口から外に向かう。
もちろん出口のすぐ外で待機するのだが、
姿が見えなくなれば相手も
少しは落ち着いてくれるだろうと思ったのだ。
小さい子供には比較的好かれることの多い自分が
こうも怖がられるとは思わず、
人知れず自信を無くすソアラだった。
しかし、大戦時代に建てられたであろう山小屋に、
出口が一つしかないことなどあり得ない。
寝具の下、破壊された丁度その床に、
別の出口へと繋がる地下通路が造られていた。
気が立っていた少年が、その逃げ道を見つけるのに
それほどの時間はかからなかった。
もうそろそろいいかな?
そう思ったソアラが、外からゆっくりと声を掛ける。
「あ、開けていいかな~?
だ、大丈夫だよ~?
怖くないよ~?」
恐る恐る扉を開くソアラが見たのは
壊された寝具しか目立ったもののない
簡素な山小屋だった。
おや?
ソアラはよく事態が飲み込めず、
何故かもう一度扉を閉めた。
そして、少し経ってから、
改めて扉を開ける。
当然、先程と状況は変わらない。
しばらく放心していたソアラだが、
だんだんと事情が呑み込めて来る。
「や、やっちゃった? あたし。
ウソ! どこ、どこ行ったの?!
ヤバい! シルビアちゃんに殺される!」




