SOS .018 覚醒
シルビアとソアラは揉めた。
最寄りの山小屋に避難したが
そこでシルビアが少年を
寝具に拘束しようとしたからだった。
シルビアは不確定分子として、
危険視するべきだと主張したが
ソアラは珍しく意見に異議を唱えた。
「ま、まって、それって
敵性判断になった場合でしょ。
何かの術式に巻き込まれた被害者だったら、
保護対象になるんじゃないの?」
「(…ちっ、ソアラの癖に)この時期に
あの場所で起きた大規模災害です。
文献にも無いような
特殊な術を行使したわけですから、
充分危険でしょう。
このままカルマリに連れていくには
担保が不十分過ぎます」
「それは、あたしたちの事情で
この子には関係ないじゃない」
何とでも言いくるめられると踏んだシルビアだが、
ソアラが思いのほか食い下がる。
こういう場合にどちらの意見を採用するかだが、
規則では公平にクジを引くことになっていた。
もちろん、相応の妥当性は必要だが、
上下関係が希薄な冒険者ギルドならではの習慣だ。
これを避けたかったシルビアだが、
規則を破るのはもっと避けたかった。
やむをえずくじを引き合い、
結果ソアラの意見が通る。
ある意味で天運を持つソアラには、
こういう時全く歯が立たないのだ。
「くそったれです!」
「それ女の子が使う言葉じゃ…」
射殺さんばかりの視線に、
ソアラがさっと目を背ける。
とはいえ、結果は結果だ。
少年はまだ起きそうにない、であれば
先に用事を終わらせるしかない。
断定は出来ないが、少年の使った術式は
本人の持っている力もある程度使用するようだった。
今はそれが枯渇している状態らしく、
目が覚めないのはそれも原因だろう。
「…私は下山して準備を整えて来ます。
それまでこの少年を頼みます。
くれぐれも逃がすことだけは無いように」
ドスの聞いた声で、シルビアはソアラに頼み事をする。
既に日は傾いているが、
単独の下山なら問題はそれほど無かった。
シルビアの行動は色々と矛盾をはらんでいたが、
ソアラはそれには気が付かずコクコクと頷く。
そしてソアラは一人で少年の面倒を見ることになった。
とはいえ、することは無い。
最初は気を張っていたソアラも
疲れのせいで眠りについてしまう。
そうやって、どの位の時間が経過しただろうか。
ソアラが目を覚ました頃には、既に夜が明けていた。
起きた瞬間、ソアラは少年を見るが、
未だにスヤスヤと眠りについていた。
ほっとしたソアラは、
外に出て顔を洗う。
少し迷ったあと、さっと沐浴をして
終われば保存食を少しかじった。
慌てて色々と片付けたものの、
少年が起きる気配は無い。
ソアラもただ待っているだけの状態に
居心地が悪くなり、ついつい
手持ちの荷物の整理をしたり、
部屋をウロウロと歩き回ったりした。
色々言うが、
シルビアは仕事には真面目で、
少年の容体に問題が無いかを
かなり念入りに調べている。
難しいことを言っていたが、
要するに起きるまで待てと言われ、
ソアラはそれを忠実に守っていた。
それから長い時間、様子を窺う。
年は12.3歳ぐらいだろうか?
多分年下だろう。
黒鳥の濡れ羽のような黒髪だ。
確か瞳も同じ黒だったような。
身体つきは普通より細め。
肉体労働では無さそうだ。
ふと、熱でも測った方が良いのかと思い、
ソアラは額に手をあてる。
その時、
少年の目が薄っすらと開き出した。




