SOS 177 白雪1
ガーファングル帝国北限近くの
寒村では、この時期に税金の代わりに
木材や藁の加工品、保存食などを納める為
荷馬車の行列が出来る事があった。
規模が小さ過ぎると、盗賊達には
太刀打ち出来ないし、護衛代がかさむ。
規模が大き過ぎると、移動速度が遅くなる。
そのため、近隣の村が連帯し、
各々の村が別々に振り分けられ
5組1集団で帝都(正確には帝都分署)に
向かうのが慣わしになっていた。
その集団のなかの一つ、カササギ班と
名付けられた集団が危機に陥っていた。
野盗連中に襲われたのだ。
「情報通りだな。小娘一人の護衛とは
襲ってくれと言ってるようなもんだぜ?」
「ははっ、ちょっと若すぎるが、
上玉じゃねえか?
いい声で鳴きそうだぜ」
集団を追いつめている連中の数は
およそ十五名。種族混合の定型的野盗だ。
「おいおい……反抗的な目つきだな?
状況わかってんのか?」
男達の視線は独りの護衛少女に向けられている。
雪のような白い髪と透き通るような肌。
それとは対照的な煌々と紅く輝く瞳。
雪の妖精のような少女が佇んでいる。
「……まあいい、とりあえず脱げ。
話はそれからだ」
野盗が慣習通りの拷問を始める。
寒冷地ではよくある、心を折る為のそれだ。
無駄だと悟り、少女は外套を脱ぐ。
「まだだ、まだ足りないな?」
「おいおい、美味しそうなあんよじゃねえか?」
仲間がはやし立てる。
少女を庇うものはおらず、
村人は状況から目を背けている。
「ほれほれ、もうちょっとだ。
頑張……れ?」
目の前にいた野盗の男一人が
違和感に気付く。
少女が外した手袋の中身が
無かったからだ。
「は? 手がねえ?
……いや――」
そうでは無かった。
少女の手は肘から先が真っ黒に変色しており
歪な形をしていたのだ。
暗闇に紛れ、その異形は見えなくなっていたのだ。
「……さようなら」
少女は無造作に手を振る。
すると、目の前にいた野盗連中の
首と胴体が冗談のように別れ、
コロリと転がり落ちる。
「「「……!!」」」
極寒の雪と漆黒の暗闇の中で少女は
美しく佇んでいる。
この極地で薄布一枚だけを纏った少女は
酷薄な笑みを浮かべる。
「ごきげんよう」
呆気なく殲滅された盗賊の持ち物や
証拠の首が回収される。
護衛少女の強さを目の当たりにした
村人連中が率先して行う。
優雅にぼんやりとしながらも、
少女は気を抜かない。
村人連中が無害だろうが、味方では無いからだ。
独りで少女は毛布を羽織る。
「次の目的地はウルメリアのカルマリ。
王の隠し子の暗殺」
口の中で反芻する言葉は
何度唱えたかわからない。
少女の儀式は続く、
目的を終えるまで、その儀式は終わらない。
炎々と輝く瞳は
延々と続く苦行を見据え、
そうしてゆっくりと閉じられた。
しかし少女は眠らない。
ここに味方はいないから。




