SOS 170 依頼
ヒナギクは中庭の違和感に気がついた。
既に敵は消えていて、脅威は去っていた。
階下で発生しているオズマット達の
やり取りなど露知らず、
ヒナギクはその違和感の方へと向かう。
気絶しているゼンや同僚を放置するのは、
普通は判断が難しいところであったが、
ヒナギクは直感的にここが安地であることを
察していた。
サイエンの頭に刺さっていた『反鏡』を
拾い上げると、逡巡もせず
ヒナギクは領城の壁面を駆け下りる。
それは彼女にとっては
造作もないことだった。
中庭では惨事が起きていた。
少しばかり状況の理解が難しかったが、
中央に佇んでいる《宝剣》を見て、
おおよそが飲み込めた。
《宝剣》が二人を拒絶したのだ。
「……これって、一大事よね」
権力構造にそれほど興味の無い
ヒナギクも、事態の深刻さは想像出来た。
そこにふらりと
山猫がやってくる。ゼンの転移術の
媒介に利用したあの山猫だ。
「……?」
そういえば、ソアラが保護する
とか言っていたが、結局緊急事態で
うやむやになっていた。
ヒナギクはその山猫を見つめる。
その深緑の瞳をのぞき込むと、
ある不思議な光を感じた。
それは意志と知性の光だ。
「……え? もしかして、
災厄の?」
山猫は目を細める。
『ああ、アルマだ。
いや……アルマだったもの、
と言った方が正しいかな』
山猫は音のしない足取りで
ヒナギクへと近付いてくる。
ヒナギクは警戒しない。
その様子に殺意も敵意も
何も感じなかったからだ。
「それって、憑依術……?
いや、違いますね。
難易度が桁違いです」
『そうだな。
憑依ではなく、
侵食に近いな。
まあ、もうすぐ完全に消滅するがな』
「……その状態で、
どうして私に?」
山猫はまばたきを一つして
ゆっくりと言った。
『……俺に勝ったら
種明かしをするという
約束だったろう?
あと……頼みたいことがあってな』
「律儀ですね。ただ……頼み事を
聞けるとは限りませんけど?」
『まあ、それはそれでいい』
山猫は日向に座り欠伸をする。
本能が段々勝ってきているようで
ほとんど猫そのものに見える。
『すまんが、時間が無いようだ。
いいかな、強者のお嬢さんよ?』
「……はいはい、わかりましたよ」
ヒナギクは山猫に近付く。




