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SOS 169 灯火

「ここは……?」

「どこだ……?」


 リッテンハイムとアーセルハイムは

領城の中庭にいた。


 ゼンの術式が解除される瞬間、

僅かに異相がズレて、

此処まで飛ばされたらしい。


 中庭には誰もおらず、

静寂が流れていた。


 二人の目の前には《宝剣》があった。


「……丁度良かった。

誰も居ないとはな」

「リッテンハイム?」

「さあ、本当の王を決めようじゃないか」


 リッテンハイムはふらふらと気力だけで

立ち上がる。

 アーセルハイムも本当は立ち上がるのも

つらかったが、リッテンハイムへの

反骨心だけで立ち上がる。


「どうやら、私と《宝剣》の繋がりは

既に無くなっているらしい。

……となれば、改めて王を

選んで貰うしかないな」


 リッテンハイムは憑き物の落ちたような

表情でアーセルハイムを見る。


「……同時に宝剣授受をするというのか?

その話が嘘なら、俺が死ぬだけだな」

「嘘と思うなら好きにしろ。

ただ、宝剣の授受無しに

国王は名乗れないぞ?

ここで俺を殺しても、お前は結局

反逆者のままだ。

新王とは認められない」


 アーセルハイムは苛立つ。

その事実が、というよりも

リッテンハイム如きに正論を

言われたことがだ。


「……認めるさ。

《宝剣》は俺を認める。

お前が何を偽ろうが、

俺の正義の方が優れている。

それは純然たる事実だ」


 アーセルハイムはその挑発に乗った。

もとより、ここに至っては

他に方法もなかった。

 そして、アーセルハイムは本当に自分であれば

《宝剣》に認められると思っていた。


「(こいつは、ある意味で

王に向いているんだな。

俺とは違い、自分に自信がある。

いや、……自分を信じている)」


 リッテンハイムは

嘘を言ってはいなかった。本当に、

《宝剣》との繋がりは切れており

剣は主のいない状態になっていた。


 そして、本当に、

王を選ぶなら、この《宝剣》に

委ねるのが一番良いと思ったのだ。


「……ほら、ここに手を添えろ」

「言われなくても分かっている!」


 リッテンハイムはアーセルハイムに

指導する。苛立たしげに、しかし素直に

アーセルハイムはその手を添える。


「《宝剣授受》」


 覚悟を決める間もなく、

リッテンハイムは呟いた。

 アーセルハイムは驚きながらも

逃げ出すことはしなかった。


 《宝剣》が輝いて、二人を包み込む。

 主人の存在を探るように、

その光はふわふわと明滅する。


 茫洋としているリッテンハイム。

 険しい表情のアーセルハイム。


 もし、リッテンハイムがもう少し賢ければ、

もし、アーセルハイムがもう少し大人であれば、

この授受は行われなかっただろう。


 そうであれば結果は、

違ったものになっていたハズだ。


 光の明滅は消え、再び静寂が訪れる。


「……?」

「……?」


 次の瞬間、二人の上半身は爆ぜた。

 ビシャビシャと中身を撒き散らしながら、

周囲におびただしい血溜まりを作り出す。


《宝剣》を中心とした、血の華が咲く。

その華は紅くて朱い。


《宝剣》の主人はゼンにより

既に登録を改変されていた。

 無意識で行ったため、

登録者以外の侵入については

抹消指示がかかっていた。


 無慈悲に無感動に、二人の命の火は消える。


 それが二人の結末だった。




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