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SOS 167 再始動

 世界は再び動き出す。

 カルマリの門は破壊されているが、

そこには普段の平穏が訪れていた。


 多くの人や野獣が死滅したが、

かけらも残さず消えていた。


 まるで嘘のような光景に、

誰しもが呆けている。


 先ほどのゼンの術式内で

意識を保って居られたのは、

ほんの一握りの存在だった。


 故にほとんどの人間達にとって、

この光景は悪夢から目覚めたあとの

あの言いようの無い感覚と同じだった。


 あれほど生々しい恐怖が、

全て夢だったと言われたような

そんな様子だ。


「……さっきのは、何でしょうか?」

「……トール。まったくもってさっぱりだ」


 戦術ギルド所属の

ガジェットとトールが道端に

へたり込みながら言い合う。


 規律ではそのような姿を見せることなど

あってはならないが、今は誰も気にしなかった。


 空は青く澄み渡り、

雲一つない。


 襲撃の爪痕は残っているが、

どこからも喧騒は聞こえず、

誰も争ってはいなかった。




「……嘘みたい」

 ヒナギクが呟いた。


 目の前には、先ほどの異常術式を

構築発動して見せたゼンがいる。

 さすがに気絶しているが、

命に別状は無さそうだ。


 向こうには、獣の王がいる。

不機嫌そうだが、暴れる気配はない。

 その王の背中からこぼれ落ちた

シルビアとソアラ、サティは

庇の下で、気を失っている。

 こちらも別状はなさそうだった。


 そして、獣の王の向こうで、

首なしのサイエンは佇んでいた。

 その身はボロボロで、酸雨の被弾を

あからさまに受けていた。


 彼女はゼンの庇護を

受けられなかったようで、

全身が壊れかけている。

 やはり生身ではなく、その身体は

見たことのない機械や部品で

埋め尽くされていた。


『……今回は負けですね』

 サイエンがどこからか声をだす。


「負けを認めるのはいいとして……

あんたの手駒(アーセルハイム)はどうするんです?」

『……いやいや、あれは手駒じゃないし。

多分、自分で決着を付けるでしょう?

腐っても王族だから』


 本来であれば、これほどの惨事を引き起こした

張本人をみすみす見逃すなど

有り得ないが、ヒナギクは今のサイエンを

本当の意味で捕まえることは

出来ないと分かっていた。


「あっそ。んじゃまあ、

次に会った時は宜しくね」

『……あーそうね』


 サイエンの気のない返事が

虚空に消えいく。


『おい、どうでもいいが、

我等の話がまだだぞ?』

『そうそう、その通りよ!』


 ディッケルベルトとファインドベルトが

苛立たしげに言う。

『……あたしに用事は無いんですけどね~』


 サイエンはうなだれる。


『お前は創術士なのだろう?

それもかなり特異な類だ』

『創術士……? ああ、

術を掛け合わせ新しい術を作る奴のこと?

あんなのと一緒にしないでくださいよ』

『違うのか?』

『あんなのただ混ぜてるだけです。

新術なんてトンでもない。ただのまやかし』

『では、お前は何なのだ?』


 ディッケルベルトは珍しく

興味本位で尋ねる。

 目的の人物像を探し出したことも

その余裕に拍車をかけた。


『……私はサイエン。

災いの猿。

それが私の字名(あざな)です。

あなたが聞きたいことは、

雄体が生まれない一族のお話ですか?』

『!? お前、何か知って――』


『《界禍》』

『な!?』

『え!?』


 ディッケルベルトとファインドベルトは

虚空の彼方に消えていく。

『一応奥の手だったんですけどね―……

こんなことで使うハメになるとは……』


 その言葉を残して、サイエンの体は

一切の動きを止めた。


 

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