SOS 160 最悪
王の行ったのは
非常に単純で明快な強化術式だ。
《宝剣》のもつ固有能力を制限をかけずに発動させる。
ただそれだけで、この《宝剣》は万物を廃する凶器となった。
領域内の全ての生命力を吸い込ませ、
ただひたすらに貪りつくす。国が国として機能する
そのための栄養である臣民の命を喰らい尽くす。
もちろん、王自身も例外では無く
この術式を開放させれば、民はおろか自分自身も消滅を余儀なくされる。
王にとって自分の命とは、その程度の価値しかない
とるに足らないものだからだ。
「死ぬ気ですか!?」
『もとよりそのつもりだが』
これほどあっさりと奥の手を出してきた相手に
ヒナギクは思考を巡らせる。
しかし、どの結論も手遅れを示唆した。
それでも、諦めることはせず、残る一刀にいま込めることが出来る
全力を注ぐ。
その時、頭上から獣の咆哮が響いた。
『『《殲紋響》』』
ヒナギク自身、目の前の戦いに集中するあまり
外からの脅威に対する感度が鈍っていたらしい。
これほどの凶悪な個体が接近するまで
毛ほどの察知も出来なかったことに驚きながら見上げる。
漆黒の獣が、その大きな口から滅魔の波紋を吐きだすのが見えた。
「あれって……獣の王!?」
『次から次へと……』
その波紋は領城はおろか領域を飲み込み、
全てを塗り潰した。
全身を通り抜ける波紋が頭や胸や手足にこびりついた
錆のような悪意を一瞬で消し去る。
理屈も理由も不明だが、あの獣の王は少なくとも明確な敵というわけでは
無さそうだった。
もし敵なら、この瞬間に全ての生物が死に絶えているはずだから。
『ちぃ!』
王の舌打ちが耳に入る。
開放した《宝剣》の術式が完全に沈黙してしまったからだ。
感覚的に再起動を諦め、王は次善策を行動に移す。
しかし、既に限界に近い働かせ方をさせていた王の身体は
上手く作動してくれない。
そこに連鎖するようにして、通常展開させていた《宝剣》の
固有術式も停止する。この瞬間、《宝剣》はただの棒きれと同じになった。
同時に、王の動きも停止する。
その隙を逃さず、ヒナギクの一閃が《宝剣》を握る右腕を切り飛ばした。
キチョウを破壊したサイエンが振り返る頃には、
王とヒナギクの戦いは終着を迎えていた。
『……アルッ!』
サイエンが中空を舞う《宝剣》を奪取するべく
意識を切り替えたが、そのお宝は第三者の手に渡る。
上空から落ちてきた獣の王が、右前脚でその《宝剣》を踏みつけ
サイエンの前に現れた。
『猿の女はどこにいる?』
『それっぽいのはいないけどー?』
ディッケルベルトとファインドベルトは
周囲に睨みを利かせながら脅した。
丁度その時、ひゅるひゅると頭上から猿の頭が落ちてきて、
サイエンはその頭を自分の手に収めた。
『……うん? お前がそうか?』
『……頭と胴体が別れる猿なんて、
珍しいわね』
『……最悪。意味わかんないだけど』
サイエンが呆然と立ち尽くしながら
そう呟いた。




