SOS 154 舞踏
「えっと、鳥の」
『キチョウです。わかっていますよ』
ヒナギクは一応言っておこうと
思ったのだが、それを聞くまでもなく
キチョウも気付いていた。
『あのサイエンさんが
手駒と手札を無しにするなど
考えられません。
幾つかは隠しているでしょうね』
「…ふーん、ならいいや
先に行くからよろしくね」
『かしこまりました』
ヒナギクが足にだけほんの僅かな力を込める。
完全な脱力をした肢体は、
ユラリフラリと地平を凪ぐ。
まるで海に浮かぶ木っ葉だ。
力が入らないなら、それを有効利用するまでだ。
「こんなもんかな?」
そして、ヌルリと動き出す。
サイエンを攻撃する為に。
『!?』
ヒナギクの刃が真っ直ぐ
サイエンの喉に近付く。
隠密の技術と不意打ち、その相乗効果で
サイエンは反応が遅れた。
つぷりと切っ先が喉元に触れる。
「《断界》」
サイエンの首と胴体が分断された。
『って、こっちなの!?』
すっ飛んだ首と胴体が叫ぶ。
「《壊跡》」
『(これヤバいやつじゃん!)《流転》』
サイエンは奥の手を思わず出してしまう。
事象を強制的に上書きする術を使い、
急場を逃れる。
ヒナギクの追撃は確実に命中したが、
サイエンは一瞬でその事実を
無かったことにする。
しかし、首と胴体はまだ別れたままだ。
『(戻せない! 何で!?)』
サイエンは最初の攻撃の効果を
無効にするべく術を練るが、
どうもそれが上手く働かない。
ヒナギクの術式の方が、上回っているからだ。
『初手で事象ごと分断させたようだな。
次手は操作者への回帰攻撃といったところか?
随分研究されたな、サイエン殿よ。
手札を見せすぎたツケかもな。
次手のあれは喰らうと危ないぞ』
王が割り込む。
『というか、私もいるんですが?
真面目に答えた私が馬鹿みたいです』
キチョウも同時に動く。
「んじゃ、作戦通りでよろしく」
そんな文句を無視して、
ヒナギクはサイエンを置き去り王に向かう。
『実戦経験の差だな。
若いくせに修羅場を潜ってるらしい』
「いえ、そんなものは
特に無かったけど?」
ヒナギクが王を挑発する。
『《天魄》』
《宝剣》に力が集まり出す。
キチョウの結界で外界とは分断されているが、
領城内部は別だ。
「《反嵐》」
その行動を読んでいたヒナギクが
《宝剣》に一撃を加え、
鍔迫り合いに持ち込む。
『ぬっ?』
ヒナギクの術式が《宝剣》を乱す。
武具の高位は《宝剣》が上だが、
使い手の技量差でその優先度は埋められる。
『(コイツは、やはり強いな)』
王が距離を置くために動くが、
ヒナギクは鍔迫り合いを維持したまま
ぴったりと付いて来る。
「このまま躍る?」
幼さに妖艶さを混ぜたような微笑を浮かべる。
ヒナギクは王の動きを
完全に見切っていた。
『手札をさらし過ぎたのは俺も同じか……』
舌打ちをする間もなく、
ヒナギクの一刀が閃いた。




