SOS 153 饗宴
ヒナギクとキチョウは天蓋を抜ける。
そこは領城の尖塔で、見晴らしの良い
展望台になっている場所だった。
そこに、サイエンと王はいた。
『キチョウちゃんと
ヒナギクちゃんだっけ?』
サイエンは足をぶらぶらさせながら、
展望台の縁に座っている。
そうしてそこから外界を見下ろしていた。
『お久しぶりですね。サイエン』
『あー、そうだねー。
ちょっと思い出話でもしたいとこだけど、
いま取り込み中なんだよねー。
二人ともー、いけるー?』
サイエンはそう言って、
フランドルと近衛兵長を呼んだ。
気配も無く、二つの影がサイエンの背後から
出てくる。
『やっちゃって』
見向きもせず、
サイエンは投げやりな指示を出す。
それとは反対に、フランドルと近衛兵長は
最初から全力でヒナギクとキチョウに
襲いかかる。
『なるほど、思考操作ですか。
でもそれはー』
キチョウがその両手を広げる。
『ー今は悪手ですよ。
《重波》』
フランドルと近衛兵長の身体に、
急激な重力の負荷がかかる。
単純な重みが二人の動きを制限した。
『動きが直線的な分、
とても読みやすい』
「《反鏡》」
ヒナギクの右刃が近衛兵長の
鎧を切り裂く。硬質なその素材を
まるで柔らかい果実を切るように、
すっぱりと切り分けた。
同時に、
「《逆鏡》」
ヒナギクの左刃がフランドルの
高熱防御術式を破壊する。
温度を急激に低下させ、
その防御を役立たずに切り替える。
キチョウが足止めすると、
事前にわかっていた訳ではないが、
ヒナギクはその直感で予想を
立てていた。
二人の動きは共鳴し、
ベントリとグレースを上回る阿吽の呼吸で
敵を屠る。
『……え? 瞬殺?』
サイエンが呆ける。
先の結果を踏まえ強化した二人の戦士が
ものの数秒で舞台から退場する。
『サイエン。あなたは数値に頼り過ぎです。
机上の計算では、本当に正しい事を
見失いますよ』
その言葉にサイエンは苛立つ。
『……世界の腐敗の片棒担いでいる奴に
言われたかないね。
王。行ける?』
『ああ、少しは慣れた。
普通には使えるぞ』
王が言う。
「……ここからが本番ですね。
ところでキチョウと言いましたか?
さっきの術式は……?」
『……あまり公にしたくは無いのですが、
少し拝借致しました。
弱っているリオンさんの術式を
使わせて頂いております。
……問題ありましたか?』
この仮面連中は大概だとヒナギクは辟易する。
他人の固有術式を借りるなど
普通の考えではない。
ただヒナギクは直ぐにそういうものと
割り切った。
「別に問題ないですよ。
あたしは王、あなたは猿。
いいですか?」
『仰せのままに』
饗宴が幕を開けた。




