SOS 152 弟達
ヒナギクに迷いは無く、
その姿は一直線に天蓋へと向かっていく。
何の打ち合わせもしていないキチョウだが、
それに遅れること無く
同じく垂直方向へと走る。
その二人に、天蓋の窓からサイエンの手駒達が
躍りかかってくる。
「《滞縛》」
オズマットは気力を絞って連中に術をかける。
ただあまりに広範囲になったため、その動きを僅かにだけ
緩めることしか出来なかった。
「充分です!」
その言葉に違わず、ヒナギクは絶妙な動きで躱し
一瞬で全ての影を置き去りにする。
彼らが攻撃を加えようとするも、既に遅く、
ヒナギクは自分の影すら踏ませなかった。
『……私もいるんですが』
キチョウも負けじとその後を追う。
ヒナギクと違うのは、襲い掛かってくる
異形の弟達を無造作に蹴散らし薙ぎ払っている点だろう。
「……大したタマだな、二人とも」
見上げるオズマットは、
これだけで息が上がりそうになっていた。
軽い片頭痛と眩暈は、術式酔いの兆候だろう。
普段ならこれぐらいのことで酔うことは無いが、
今は王の《宝剣》により、
少なくない神導力を吸い取られている。
あまり長引くようなら、
こちらに勝ち目はないだろう。
「やれやれ、どうだ? ギルマス殿?
ちょっとぐらいはやれそうか?」
「……無茶言わないで下さいよ。
ま、やりますけどね」
「……同じく、私も行けます」
言葉とは裏腹にきつそうな
ベントリとグレース。しかし、オズマットは
気にすること無く振り分ける。
「んじゃ、二人でそこの連中を守ってくれ。
俺は地道に数を減らす」
そこの連中とは、気絶している宰相マックス。
使い物にならない聖導士リオン。そして
カルマリで居を構える治癒術士の三人だ。
天井から落ちてくる影たちは、大きさも形も
全てがバラバラだ。
異形の怪物と言うほか無い。
「《滞陣》」
オズマットは自分の身体に
術式を纏わりつかせる。
時限式の術だが、運用効率が良い術式だ。
無駄遣い出来ない神導力を
最小限に留める。
「とりあえず、我慢比べだな。
やれやれ、
おっさんにはキツいぜ? 本当に」
上から落ちてくる丸々とした黒い異形に
オズマットは軽く一撃を加える。
半身のみ動きを抑えられた異形は
態勢を崩して倒れそうになる。
その隙を逃さず、オズマットは力を込めた
一撃を見舞う。
「まずは一匹」
オズマットの表情が
冷徹なものへと切り替わる。
「……仕方ない、グレさん」
「問題ないわよ。バズ」
昔の呼び方で呼吸を合わせる
グレースとベントリ。
「《黒壁鎧》」
「《白雷刃》」
防御に特化したベントリと
攻撃に特化したグレース。
能力を強化するため、
術式の保有色を露わにさせる。
術式構成が丸分かりになる欠点があるが、
同時に術式の構成力も跳ね上がる。
「守りは任せる」
「攻めは任せる」
阿吽の呼吸でグレースが地を蹴り出す。
瞬きする時間も無く、黒い影はバラバラとなった。
「オズの言うとおり、
我慢比べね」
「だったら負ける気はしませんね」
ベントリの元へ影が忍び寄り、
不意打ちの一撃を繰り出す。
しかし、その一撃はベントリの防御に阻まれ、
音を立てて四散する。
僅かな身動ぎもなく、
ベントリはひたすら術式の維持に努める。
その上から、妹達が堕ちてくる。




