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SOS .015 迷い

「ソアラ、こっちへ」

「はい」


 ソアラの掌ぐらいになった《洞蜘蛛》の毒素を

シルビアは携帯していた気密袋に封入する。


 元々は病原体や薬効成分を

含む素材などを収集するものだが、

今回は蜘蛛の毒素そのものを封じ込めた形だ。


 後で検分して判明したが、

この毒素は正純度の毒素となっており、

ソアラが圧縮する際に、

不純物を完全に取り除いたことで

此処まで小さく固まったようだった。


 同時に毒素以外の不純物は完全に分離分解され

《洞穴》の一部となり果てていた。

 言い方だけ変えれば、自然に還ったとも言えるだろう。


 すでに神業と言って良い所業だ。


 ちらりと見た先にいる少年は、

再び気絶している。

 先ほどの現象の発現に一役買ったことは間違いない。


 しばらくして心が落ち着くと同時に、

シルビアとソアラの纏っていた全能感が消え

いつもと同じになる。


「シルビア。今のは…な、なに?」

「断言出来ませんが、

この少年の力でしょうか…

でも、今までこんな力は

どんな文献でも見たことありませんが…」

 

 シルビアが難しい顔で立ち尽くす。


「で、えと、その、出るよね?」


 ソアラはとりあえず、

ここから出ることを優先したかったので、

シルビアにそのまま進言した。


「そう…ですね」


 歯切れの悪いシルビアに首を傾げながら、

ソアラは少年を背負った。

 先ほどの効果か、身体がとても軽くなっている。


 そして言うまでもなく、今となってはシルビアでなければ

出口を探すことは出来ないのも理由だ。


 《神鉄如意》を使い、シルビアは

上手く地上へ向かう通路を見つけ出す。


 そこからは二人掛かりで

少年をゆっくりと運んだ。


 少年を今すぐ気付けするかで

意見が割れたが、シルビア曰わく

混乱を防ぐため反対に眠りを深くさせる。


 これでしばらくは落ち着いて行動できるはずだ。


 地上にでる頃には辺りはすっかり薄暗くなり、

夜が段々と迫っていた。


 シルビアは終始静かに押し黙り、

ソアラは心配になる。


「シ、シルビア…? どうしたの。

さっきから黙って」


「いえ、別に」


 そう言って、シルビアは再び黙り込んだ。


「カルマリに戻るのは、

明日じゃ無理かもね」


 ソアラが呟いた言葉は、

単純で当たり前の内容だったが、

シルビアはどういうワケか

意義を唱えた。


「待って下さい。ソアラ」


 ソアラは疑問を顔に出した。


「私の《神鉄如意》の神導力も心許ないですし、

この少年も一度落ち着いて検分した方が

良いのではないでしょうか?」


「えっと、それって?」


「一度、ミラの街に寄って、

そこで状況を整えてから

カルマリへ帰りましょう」


 ミラは最寄りの大都市だ。

副都であるカルマリより規模は小さいが

モノと情報は手に入る。


 カルマリへの送迎馬車も、

安全性はとても高い。


 納得出来る提案だが、

ソアラはとても気になった。


 シルビアは、

何かを迷っている気がしたからだ。


 付き合いがそれほど長いわけでは無いが、

基本的にシルビアは規則と合理にこだわる人だった。

 冒険者ギルド内では、サティと似ているが、

違いとしては「合理的」であることを何より重んじる傾向がある。


 上手く言えないが、シルビアのその提案は

どうも合理的というよりも、私的な感情がある様に思えた。


「ちょ、ちょっとまって、シルビア」


 珍しく、ソアラが反論を出した。


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