SOS .014 衝撃
二人の腰に纏わりつくように、
少年は抱きつく。あまりの不意打ちに、
シルビアもソアラも避けることが出来なかった。
「ちょっと!」
「わわわっ!」
“た、助けて!”
言葉は理解出来ないが、
シルビアは少年が何を懇願したかを理解した。
しかし、それであればなおのこと、この格好は不味い。
それはソアラも同じだった。
「離しなさい!」
「ちょっと離して!」
シルビアが少年の右手を掴み、
ソアラも同時に左手を掴む。
その時、驚くべき現象が起こった。
生まれつき自分で神導力を生成することも、
放出することも出来ないシルビアの身体から
あり得ないほどの輝きを放つ神導力が迸る。
その光景は先ほどのソアラと似たような現象だったが、
確実に異なる点があった。
それは、力が完全に制御されていることだった。
全身を打つような
煌々とした輝きを持つ光源は、
それでいて安心出来る
温かみに満ちていた。
一方、自身の力を操作することについて、
どんな教師もさじを投げたソアラは、
どこでも火薬庫のような存在だった。
いくら教えられても、
操作する術を頭で理解することが出来ず
仲間を危険に晒すことも少なくなかった。
学生時代の実習でも、誤って
何人か殺しかけているぐらいだ。
だが、この瞬間にどういうわけか
すべての神導力の流れを手に取る様に把握することが出来た。
髪の毛の一本一本に至るまで、
その動き全てを網羅できるような感覚。
目に映る、耳に聞こえる全てを
つぶさに観察しているような感覚。
このときの二人に共通していたのは、
万能感を遥かに上回る全能感だった。
「これって…!」
「どういう…!」
驚嘆する二人だが、
その間も狂気染みた《洞蜘蛛》は
本能のまま向かってきている。
しかし二人には既に共通する理解が既に出来上がっていた。
合図も無しに、二人は同時に地面を蹴る。
《洞蜘蛛》の迫る速さの数倍の速さで二人は迎え撃つ。
「《転儀・雷光》」
普段の術式であれば、
一筋の紫電により相手を穿つ攻撃だが、
今回は全く異なっていた。
シルビアの声に導かれるようにして、
膨大な神導力が手に集まる。
シルビアの周囲に美しい螺旋を描いた力は、
百条とも千条とも言える数を生み出し
やがて一本の大木を思わせる大きな
雷の鏃となった。
そのまま《洞蜘蛛》の頭部から胴体を貫くように
シルビアの雷光が突き刺さる。
先程シルビアが言った通り、
本来であれば卵を破壊するような攻撃は愚策だが、
もし仮に「毒素」を完全に閉じ込めることが出来るなら
それはむしろ方法論としては間違っていない。
「《風繭》」
ソアラの言葉に応じ、空間が圧縮される。
本来は汚染された空気などを
清浄する程度の術式だが、
ソアラが使用したそれはかけ離れた威力を持っていた。
《洞蜘蛛》が母体ごと圧縮され、
軋み、本来の大きさの百分の一ほどの
大きさになるまで小さくなっていく。
大きな風の繭が、その身体を包み込むようにして
小さく小さく圧縮をされていく。
やがてそれは掌に収まる程度の大きさになった。
しかも、毒素の成分だけが分離抽出され、
固形安定化されるというおまけ付き。
もし学術ギルドにでも持ち込めば、
いくら支払われるか見当もつかない代物だ。
あまりに呆気なく、その脅威は沈静化された。




