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SOS 122 領城

 カルマリの厳戒体制が敷かれ、領城の門も厳重な警備となった。

普段の出入り業者でさえ、いつもは確認がおざなりになっている

通行証を一人一人確認するなど、急な業務量の増加に従事する職員は

忙殺されていた。


 聞くところによると、外部からカルマリへ入ることも

一時的ではあるが制限されており、

カルマリに居住権を持っていて、身分が確定している者以外

流入出来ないようになっているらしかった。


 そのため、外国からの流浪民や移民、種族違いの者はもちろん、

隣国や同盟国から来ている長期冒険者たちも足止めを食っていた。


「……こんなに厳しいのって、

今までにあったんですか?」

「いいえ、少なくとも私が勤めている間では

一回も無かったわね」


 新人の女性給仕が年嵩で一番の古株である

女性給仕に尋ねた。

 もちろん、休憩時間など無く、

用事が一緒になった折に聞いてみなくなって聞いた話だった。


 上長である執事長のグランセは詳細も何も教えてくれないが、

先輩方によれば、王権を脅かす何かがあったのだと言う。

 それが、口憚られることであるのは重々承知しているが、

だからといって気になるものは仕方なかった。


「あんまり喋っているところを見られると今は面倒よ?

仕事に集中なさい。これは老婆心からの忠告。いいわね」

「は、はい。わかりました」


 新人が慌てて頷くと、彼女は忙しそうに足早に去っていった。


 領城に勤めるぐらいなので、新人である彼女も優秀な部類なのだが、

今の忙しさにやや辟易していたことは否めない。

 なので、休憩がてらではないが、少しだけ外の空気を

吸いたくなるのも当然のことだった。


 領城の給仕場、さらにその裏の勝手口は

かなり古い型の施錠なので、

少し強引に引けば簡単に鍵が外れる仕様になっていた。


 防犯としては手落ちも手落ちだが、

現場職員としては非常に重宝する部分もあり、

実際は暗黙の了解で全員見てみぬふりをしていた。


 廃棄する食材の切れ端や残飯を持って出る体で、

新人は勝手口から廃棄場所までをゆっくりと歩く。

 それほど広くない場所と道だが、領城にいて緊張し続けるよりは

ずっとずっと気が楽だった。


 そこでふと、何かの気配に気が付く。

一瞬、侵入者かと思ったが、どうもそういう気配では無い。


 気になり、軒下や茂みを探すと、

そこには珍しいことに一匹の山猫がうずくまっていた。

 特徴的な尖った耳と大きい目。

そして背中の模様もまさに山猫だったが、

知っている成体より小さく、おそらく子供の山猫だと分かる。


 集団で生活をしていて、その名の通り山で生きるのだが、

この子はどうやら一匹だけのようだった。

 はぐれたにしても、ここまで来るとはどうも考えにくい。

 となれば、出入り業者の誰かが持ち込んで逃げ出したのだろう。


 くるるる、と小さく弱い声を出す山猫は、

警戒心の強い性質にも関わらず、近づく彼女を見て

逃げ出すことは無かった。


「おー、よしよし、どうしたの?

お腹すいたの?」


 殺伐としていた空気に疲れていた彼女は、

その愛くるしい鳴き声にほだされ、

ちょっとだけ食材の歯切れをあげることにした。


 少しは警戒するかと思ったが、

山猫の子供はそれを少し嗅いだ後、

むしゃむしゃポリポリと食べだした。


 さっさと目的の廃棄を終えて戻っても、

まだ山猫の子供はそこにいた。

 あげたご飯もすでに食べているが、

食べ足りないようだ。


 迷った挙句、彼女は少しだけならと、

山猫の子供を手招きした。

 するすると彼女にすり寄った山猫は、

すっぽりと彼女の手に収まる。


 野性味は薄く、むしろ身体からは

洗ったようないい匂いがした。

 間違いなく、誰かの飼い猫だろう。


 山猫を飼うのは珍しいが、

あり得ない話ではなかった。


 ただ、ここに置いていては、

警備の連中に見つかってどうなるかわからない。

 新人は迷ったものの、

少しだけならと領城に連れていくことにした。


 この子はかなり大人しく、

ばれずにやり過ごすことも出来ると思ったのだ。


「静かにしてね?

見つかったら食べられちゃうかもよ?」


 その新人の脅しに、山猫はくるっと一鳴きして答えた。


 新人は、こっそりとその山猫を領城に招き入れる。



 




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