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SOS 123 独り言

『さてさて~? 良い感じに仕上がって来ましたね~?』


 猿の仮面を被ったサイエンが、目の前に展開される

複数の画面を見ながら足を伸ばす。


 ここはカルマリの領内にある宿泊施設だった。

高級宿というわけではないが、

それなりの稼ぎのある者が泊まる宿だ。


 そのため、部屋はそれなりに広く、

また呼べば部屋まで食べ物を持ってきてくれるし、

湯浴みも個別に用意してくれる。


 勿体ないとすれば、サイエンは今は

何も食べる必要が無いし、湯浴みをする必要も無いことだろう。


 寝台に寝そべり(それもまた必要な行為ではないが)

サイエンは現状を整理する。


『王様と弟は対立が確定して、

戦力の分散も出来てる。

後はどこまで削り合いが出来るかね』


 サイエンにだけ見えている四角い画面越しに

謁見の間の現在が映し出されている。


『《洞穴》の辺りは必要な回収作業も終わっているし、

召喚術式のデータも収集済み。

抹消も終わっているから言うことないわね』


 《洞穴》付近には未だに妹達の成れの果てが

点々と転がっているが、サイエンにしてはあまり価値のないものだった。

 高価と言われる魔石や神石も中にはあるが、

多少の損失は痛くもない。


『カイケンちゃんは……妨害(ジャミング)されて

よくわからないわね。

ま、今は敵同士だから仕方ないか』


 ブラックアウトしている画面をちらりとみて、

サイエンはさらに色々な箇所をザッピングする。


 すると、ある画面に目が留まった。

 領城の裏手で、給仕の女が何かを抱えている様子が映る。


『あれって……?』


 その手には、猫。いや、山猫らしき物体が収まっていた。


 山猫、と聞いてサイエンは昔を思い出す。

孤児院にいた頃、ちんちくりんで髪はぼさぼさ、

牙のような八重歯に、反抗的な目付き。

 それを見て、孤児院の院長は「まるで山猫の子供だ」と言った。


 サイエンはまだ幼かったが、聡い子供だった。

だから、院長が言った言葉の意味も音感も全て

ありありと覚えている。


 子供だからわからないだろうと思って、蔑まれた言葉は

未だにサイエンの中に居場所を持っていた。

 もっとも、院長は悪人では無くどちらかといえば善人の類だったので、

そこに何か特別な恨みがあるわけではない。

 あるとすれば、この世界の体制そのものへの恨みだ。


 その時、ヒュン。と、合図が届く。

 仲間からの連絡だ。


『んあ、キチョウちゃん?

そっちは大変そうね。大丈夫?』

『元凶であるあなたに言われたくはありませんが、

まあ、それはこの際いいです。

若様からのお言葉を伝えます』

 麗しい声が特徴のキチョウからの連絡だった。

『若旦那様から?

何々? 何だって?』


 ウキウキしながら尋ねるサイエンに、

キチョウは流麗な言葉で話す。

『やり過ぎないように。

とのことです』

『えー? そんだけー?

他は無いのー?

愛の言葉はー?』

『そんな睦言、言われたことはあるのですか?』

『無いよ?』

『では、無いでしょうね』


 サイエンはぶつくさと文句を言うが、

キチョウは取り合わない。

 短くない付き合いで、お互いのことは

それなりに理解しているからだ。


『では、ご存知の通り忙しいので切りますね。

先ほどの言葉、確かに伝えましたよ?』

『あいあい』


 適当な相槌を打つサイエンに、

キチョウはそれでもなお礼儀正しく言葉を繋ぐ。


『ご武運を』

『……あい』


 途絶えた通信音に耳を打たせながら、

サイエンはキチョウの真面目さに若干呆れる。

 相手が誰であろうと、姿勢と態度を一貫させるキチョウには

ある意味頭が下がる気持ちがあったから、

その呆れは侮蔑とはならなかったが、

サイエンはキチョウの、そのらしさに世界の不条理を感じることもあった。


 キチョウは真面目で一途だが、

だからといって世界を良くする力は持っていない。

 それが、どうも腹立たしいし、我慢が出来なかった。

 誰にと言われても困るのだが、実際そうだった。


 ちなみに、カイケンは不真面目で一途だ。

サイエンの最愛である若旦那様のことを

あけすけに「バカ旦那」と呼ぶ始末なのだから。


『……ま、見ててよ、若旦那様。

あたしは、あたしの理想を創るよ。

若旦那様が他の女に夢中でも、

私はそれでも構わないから』


 そしてサイエンは破滅的で一途な女だった。





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