SOS 119 偽物
アーセルハイム個人所有の飛空艇は、
かなりの速さを誇った。
大戦前までは考えられない速度で、
王都から副都カルマリまでを駆ける。
その飛空艇を直接見た大衆は、これが国の大事であると
改めて認識することになった。
祝賀式は急遽取り止めになり、街には警備部の連中が
厳戒態勢のもと駆り出される事態になっていた。
一般大衆は自宅または職場の待機を余儀なくされ、
別命があるまでは一歩も外に出ることが出来ない状態となった。
具体的な情報は一切流れてこないものの、
年長の者からすれば、これは陛下の御身に
一大事があったに違いないとすぐに分かった。
それ故、冒険者を始め一部気性の荒い者たちでさえ、
この急な変更に異議を唱えるものは居なかった。
そんな折に、王弟の飛空艇がやって来れば、
まさに今このカルマリで歴史的な転換が起こることを
疑うものは居なくなった。
「おいおい、普通に来なすったぜ?
アーセルハイム様ってそんなに無謀だったか?」
「いえ、逆ですね。
自尊心の塊のような方ですので、
それゆえの正面来訪でしょう」
「しかし、自分が疑われていることなど、
百も承知のはずだろう?」
オズマットとベントリは
気を配りながら会話する。
周囲では他のギルド職員もごった返し
上を下への大騒ぎとなっている。
あのリオンでさえ、この状況を見て王弟の手引きだと
すぐさま思ったほどなのだから。
もちろん、情報も証拠もないが、
王と弟の確執はこの国の公然の秘密みたいなものだった。
「今まで挫折という挫折を
知らない御方ですからね。
我々とは思考の根底が違うのでしょう」
「俺とは真逆だな」
「師匠にも挫折があったのですか?」
「挫折で出来てるよ、俺は」
ベントリの以外そうな顔に、
オズマットは辟易する。
「つーか、もうその『師匠』は止めろ」
既に師弟関係など過去のものだからだった。
「ああ、新しく可愛い弟子も出来ましたしね」
「違うっつってんだろ!」
そんな二人に影が近付く。
ピース・パロットだ。
「どした?」
「ギルマスとオズさんに呼び出しっす。
謁見の間まで来いと」
「まじかよ……」
「現場ですか」
オズマットとベントリの顔が
一層暗くなる。
大捕物の立ち会い、
いや、実働をさせられるのだ。
「戦術ギルドの分担だろ?」
「……フランドル様の直訴らしいです」
「あの偽物、面倒な知恵付いてんな、おい」
オズマットは最悪の事態を想定する。
実際のところ、あのフランドルが偽物である
という証明は難しい。
あのサイエンがどういう理屈で
フランドルの偽物を造ったのか
全く理解が出来ていないからだ。
暴露しようにも、本人ではないという証明が出来ない。
オズマットの勘では、今までの人形や変わり身の概念から
完全に逸脱した存在であると確信しており、
おそらく既存の方法では到底看破出来ない精緻さの偽物だと考えた。
いまここで彼が偽物であると分かっているのは、
直接彼の討伐に出向いたオズマット、ベントリ、ピースそしてリオンの
四名だけ。
反対に、彼が偽物であると理解していながら
それを指摘しなかったという事実が後になって分かれば、
その不手際を咎められることだろう。
行くも地獄、引くも地獄の心境だ。
「……すでに陛下の信頼を得ちまってるなら、なおさら、
どうしようもないんじゃねえか?」
「ただ、知らぬ存ぜぬでも逃げ切れそうにないですね」
「なんつーか、頼んます。何とかお願いします」
ピースの懇願も空しく、二人にはまだ打開策は出てこない。
「リオンの嬢ちゃんは、どうするつもりだ……?」
オズマットは、恐らく先に呼び出されているであろう、
リオンの行動を案じた。
妙な悶着を起こしていなければと思う。




