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SOS 115 白熱

「……へ、陛下が崩御されたんですか?」

「いや、そこまでじゃないわ。でも

その可能性が示唆されるなんて普通は無い。

だから、その可能性もあると思う」

「極めて重篤って……

最大級の危険表現ですよね」

「掲示板にそこまで書くっていうのは」

「上位権限者の検閲を通ってるはずです」

「そう、だから信ぴょう性は高い。

というか、そう書かざるをえない緊急事態ってこと」

「ギルマス達は」

「もちろん知ってる。確認欄の署名も見た。

恐らく最短手段でカルマリに向かっているはず」

「……というか、私たちも早く向かわないと、

うん? 転移すれば早いですよね。

それで行けば」

「それは不味いです。サブマスの確認署名と

カルマリへの到着時差が短すぎます。

転移術式の存在がこの時点でばれるのは多分、

とっても不味いです」

「……そう、その通り。もし陛下が何者かの強襲で

御身を害したのだとしたら、そんな術式を

保有している存在を見逃すわけが無い」

「下手すれば敵性勢力の協力者、

悪ければ首謀者扱いです。

この転移術式はそれぐらい危険な代物です」


 矢継ぎ早な議論が繰り広げられる間、

部外者であるカイケンとゼン、そしてソアラが

出店のお茶屋で紅茶を啜っていた。


 四人は少し離れた川の近くで、

白熱した議論を進めている。


『ところで、ソアラさん。

あなたは議論に参加しなくてもいいのですか?』

「……え? あ、いや、その

お二人の監視任務ということで」

『なるほど、体裁はそうですが、

ソアラさんも参加したいんじゃないですか?』

「……わ、わたし、それほど頭は良くないので、

みなさんの会話の速度には付いていけないので」


 会話の内容が気になったゼンだが、

ソアラの妙な落ち込み様に、あまり聞かないほうが

良い話題なのだろうと思い

カイケンには何も言わなかった。


 ある意味、言葉が通じないことで

この場に居る罪悪感のようなものを

感じずに済んだ形だ。


『ソアラさんは御自分に自信が無いのですね。

それほど膨大かつ強力な保有量がありますのに。

歴代最高値という話でしたが』

「はは……、でも、術式構築は全然まともに出来なくて。

暴発ばっかりしてたら、

火薬庫とか、言われるぐらいなんで。

冒険者ギルド職員も、

お父様のコネで採用されたぐらいなんで」


 カイケンが一口紅茶を啜る。

ゼンは自然とその姿を見た。

 どうしてかわからないが、

何かソアラに対しての

やさしさのようなものを感じた。


『……そういえば、

あの山猫ちゃんはどうしました?』

「あ、ここに」


 そう言って、ソアラは自分の持つ

斜めかけの鞄を指差す。

空気穴から顔を出す山猫の子供は、

既に元気を取り戻しており、

ソアラが時折差し出してくる食べ物を

もぐもぐと食べている。


『その子が無事に転移出来たのは、

どうしてかわかりますか?』

「え?」


 カイケンが唐突に言う。

戸惑うソアラをよそに、

カイケンはつらつらと話す。


『転移の術式は繊細です。というよりも、

術式の規模に比べてその消費する神導力が極めて大きい。

つまり、神導力を大食いするんですよね』

「大食い?」

『転移前に保有量を説明しましたが、

あれは嘘です』

「嘘?」

『あの転移術式の9割方を負担していたのは、

ソアラさんあなたなんですよ』

「……………………」


『あなたがいなければ、

まともに転移など出来ませんでした。

もっとも、グレースさんとヒナギクさんも

もちろん素晴らしい腕前の持ち主ですが、

お二人だけでは転移は出来ませんでした。

さらに言えば、

この山猫のように循環から外れる存在は

転移には不向きなのですよ。

それを転移させるにはさらに膨大な保有量が必要となる。

それを賄えたのは、あなたが居てこそです。

才能に勝る技術など無い。

わたしは、そう思いますけどね。

技術など、代わりはいくらでもありますから』


 珍しく饒舌なカイケンに励まされた

ソアラだが、ややはにかんだものの

自信を取り戻すほどの材料とはならず、

その顔色は晴れない。


「それでも、私はやっぱり

初歩的な術式もまともに扱えませんでした。

本当に、宝の持ち腐れです。

色々高名な先生に教えてもらいましたけど

皆最後は諦めました」

『それが原因ですね』

「え?」

『凡人が天才を指導した弊害です』


 ソアラがカイケンの言葉に驚いた。


「いや、とても高名な先生ですよ?」

『その方々は少ない保有量の

効率的運用に成功したに過ぎません。

小銭を運用して小金持ちになった

ただの成金です』


 ソアラは絶句する。


『本物の大金持ちのあなたが、

小銭稼ぎに教えを受けてどうします?』

「え? いや、え?」


 カイケンは何か思いついたらしく、

ソアラを手招きした。

 やや訝しげになるものの

素直に顔を寄せるソアラにカイケンは

小声で耳打ちする。


『先ほど宝と仰いましたが、

もし今後また《宝銘》持ちに

出会ったら、強くなる方法を

聞いてみて下さい。

あなたなら多分、答えてくれますよ』


 そんなこと、二度と人生で無いだろう。

そう思うが、カイケンの言葉には

何か予言めいた響きがあり、

ソアラは戸惑った。


 議論はまだ熱を帯びていた。


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