SOS 112 発動
「…………あの、私、
新興宗教はちょっと……」
『大丈夫大丈夫。
怪しいもんじゃありませんよ』
すごく怪しげなやり取りをしているのは
カイケンとサティだ。
サティはそういう方面ではかなりの潔癖で、
国家主教であるノルディア教以外は
認めない類の人だった。
厳密に言えばノルディア教の中でも
最古本流と言われるラース派だったが
今はどうでもいい話だ。
『皆様で術式共鳴するために
こうして円になって手を繋いでいるだけですよ』
「術式共鳴……? それって
かなりの高度術式ですよ?」
こんなお遊戯みたいな準備で出来るとは
思えませんが?」
当然の指摘にもカイケンは気にしない。
『大丈夫大丈夫。
私を信じて。
信じるものは救われる』
足じゃないといいけどね……。
シルビアは心の中でそう呟いた。
日を跨いで翌日。
ゼンの体調が復活した頃合いを見て、
カイケンは今からの術式内容を
説明し始めた。
日は高く、丁度お昼になった頃合いだ。
のんびりしているように思えるが、
この山々を素人を含んだ集団で越えていくなど
出来ないという判断の結果、
カイケンの提案に乗ることになった。
それを要約すると
・全員でひとつの転移術式を起動させる
・調整は役割分担する
という単純明快なものだった。
ソアラはそれで理解しているか不明だったが
概ね納得はしているらしかった。
『さて、では役割分担内容です。
ゼンくんは《融合化》の起動。
私はその補助。
グレースさんは転移先の具体的可視化。
サティさんはその補助。
ヒナギクさんは術式内の
不要回路の適時削除。
シルビアさんはその補助。
ソアラさんはとにかく寝ないこと。
以上です』
ソアラ以外全員が頷いた。
「いや、ちょっとあたしだけ
指示内容おかしくないですか!?」
『いえいえ、
ソアラさんは一番大事ですよ。
計算したんですが、
サティさんとシルビアさんは
保有神導力の総量が一人分の移動でも
足りません。
ヒナギクさんとグレースさんは
ギリギリですが微調整分の
余裕までは有りません。
よって不足分はソアラさんに
お願いするしか無いのですよ』
「いやでも……それで寝ないって、
一体何をすればいいんですか?」
『意識を落とさなければ問題ないです。
先ほどのように途中で気絶してしまうと
今回は無事では済みませんので』
さらりと重要なことを
言ってのけるカイケン。
「でも、勝算があるんでしょう?」
グレースがカイケンに聞く。
先日の共闘を終え、何かしらの共感でも生まれたのかもしれない。
その反応にカイケンは頷き、ヒラヒラと手を振る。
『それは勿論です。
わたしが死にたがっているように
見えましたか?
残念ですけど、まだやりたいことがありますので
死ねないのですよ』
「じゃあ、おねがい。
時間も勿体ないし、
準備は出来てるんでしょう?」
『ええ。ではそろそろ行きましょうか。
心の準備は良いですか? みなさん』
ごくりと息を吞む面々。
『ではゼンくん。なるべく心は穏やかに。
今回はソアラさんがいますので、
酩酊の心配はないですよ』
「は、はい………………いきますね、
《融合化》」
その瞬間、全員の意識が並列化する。
「これは……!?」
「凄い……!」
グレースとサティが驚嘆の声を上げる。
それは音としての声ではなく、
この場に居る全員の心の中の声だった。
「術式が眼に見えるなんて
…………どういう理屈なんです?」
「わかりません…………が、
これは世界が一変する術式ですよ」
誰かに説明しろと言われても
かなりの難易度があるが、
ヒナギクとシルビアの目の前には
複雑怪奇な円と螺旋が入り乱れた術式が
広がっている。
それは転移術式を構築しているものだが、
コレほどまでにはっきりと詳細が露見しているのは
見たことが無い。
一番の不思議は、見たことが無いはずなのに
何故かそれが転移術の根幹を成す術式であると
肌の感覚で理解出来たことだ。
もっとも、今は肌も体も重さを無くし、
フワフワと浮かんでいるような沈んでいるような、
そういう感覚の波間に揺られているような状態だった。
ソアラは急速に自分の神導力がぐいぐいと
吸い上げられていくのを感じた。
ただ、これはあの時の《洞穴》で吸われた感覚よりも
緩いもので、気絶するほどの量では無いと感じた。
「わ、わたしは大丈夫そうです」
ソアラの言葉を受け、カイケンは心の中で
膳を誘導する。
術式の必要な部分のみを起動させ、
グレースの意識する転移先に照準を合わせる。
特に指示をせずとも、グレースは全員が向かうべき場所の
方向へと術式の動きを整える。
ヒナギクはというと、術式の中での不要な部分を削ぎ落し、
単純な一つの術式へと変えていた。
移動の対象者を簡易的に保護する幕を展開させる術式も、
移転先の位置情報を保管しておく術式も、
今回必要とないものをどんどんと消していく。
『(……やっぱり、この二人を巻き込んで正解だったわ。
シルビアちゃんとソアラちゃんだけだと、
難しい方法だからね)』
術式の展開が過不足なく終了して、
カイケンはゼンに発動を促す。
『では、ゼンくん』
「は、……はいっ!」
ゼンが、覚悟を決めて
発動させた。
『《転移!》』




