SOS 111 転移
『と、いうわけで、
ご気分は如何ですか?』
「……さ、最悪です」
ゼンはまだ顔色が悪かったが、
自分で座り込めるほどには回復していた。
『大変そうなところ申し訳ないのですが、
先程の転移術式を
またお願いしたいのですよ』
「…………え?」
ゼンは顔が引きつった。
あれは車酔いと船酔いと胸焼けと偏頭痛が
一度にやってきたようなもので
もう二度と体験したくない酷さだった。
『そうしなければ、
皆様ここから帰るに帰れないものでして。
私も心苦しいのですがね?』
いつも通り心のこもっていない
話し方でカイケンはゼンに首肯させようと
ぐいぐい詰めてくる。
「ちょ、ま、待って下さい!
えっと、あれ?
カイケンさんは使えないんですか?
いつも何でも説明してくれるじゃないですか」
『無理ですね。
サイエンが特別なんですよ。
ゼンくんはサイエンの術式を
そのまま利用したから使えたワケで
アレンジはまだ無理でしょう?
私はそれ以前の問題ですから』
「えと、それじゃあ、
他にその術式? 神導術? ていうやつで
何とか出来ないんですか?
不思議なパワーで」
カイケンはやれやれと言いたげに首を振る。
『ゼンくんは何か勘違いを
しているようですが、
神導術とはあなたの言う魔法みたいな
不可思議現象ではありません。
理由と結論、原因と結果が伴うものです。
正しく、神によって導かれる力。
思い通りになどおこがましいですよ』
やや厳しい口調でカイケンに注意される。
ゼンはとりあえずどうにか次善策を見つけようと
思いつきで話す。
「えと、あの気持ち悪くなるやつって、
体に悪くないんですか?」
『あれ以上になると、下手すれば死にますね』
「めっちゃヤバいじゃないですか!?」
『大丈夫。ゼンくんはまだ死にませんて』
「適当過ぎませんか!?」
『細かいですねいちいち』
「細かくないですよ!
あ、そうだ! サイエンさんは普通に使ってたんですよね。
何かコツとかあったり、ほら、
そういう道具とかあったりしないです?」
『コツはありますね。術式の運用効率と理解度を深めて、
元々の保有神導力の総量を増やせばまあ、サイエン並みに
使うことは出来るかもしれませんね』
「どうやるんですか?」
『地道に数十年の訓練を死ぬ気で頑張れば、
死ぬ前には出来ますよ多分』
「それ意味ないですよね!?」
この世界でまともに話せるのはカイケンしかおらず、
ゼンは無意識に饒舌になる。
ただ、いくら回避しようとしても、
カイケンは引き下がるつもりは無いらしく、
最後は強引に抱え上げて連れて行かれることになった。
「それで、話はついたのかしら?」
グレースがカイケンに話しかける。
ゼンとはまだ意思疎通が直接出来ないため、
カイケンを通訳代わりに使っている。
『はい、快諾していただきましたよ』
何と言っているかわからないが、
多分嘘を言っているのだろうとゼンは確信する。
「ま、そういうならそれでいいですが、
……本当にこの人数を運べますか?
私たち二人の時でさえ、
あれだけ反動が起きたのに」
『それについては、ちょっと考えがあります』
「何かしら?」
『全員参加で転移術式を稼働させればいいのです。
自分の移動分は自分の神導力で補ってもらえれば、
ゼンくんの負担も少なくなるでしょう?』
グレースはパチクリと目をしばたかせた。




