SOS 109 合流
「……そう言えば、あれ?
どうしてサブマスターがここにいるんですか?
あと、カイケンさんも?」
山猫を抱きながらやって来たソアラが、
自分の記憶違いを確かめるように恐る恐る尋ねた。
「それを今になって聞く辺りが、
まあ、あなたらしいといえばらしいですね」
シルビアが呆れたように言う。
「いいじゃないの。
ソアラちゃんらしくて」
サティがシルビアをたしなめる。
「うんうん、サンサンはそうでなくっちゃですね」
ヒナギクが笑いながら同意する。
「いや、それって、
褒めてます……か?」
ソアラが疑問を提示する。
「まあ、それはさておき、
みんなお疲れ様。酷い目に遭ったけど、
無事で何よりよ」
復活したグレースがその場にいる全員を労う。
『そうですね。まさにその通りです』
疲れを感じさせないカイケンが
グレースの言葉に乗っかる。
グレースはカイケンを一度ちらりと見たものの、
それ以上は何も言わずに、向こう側を見た。
先ほど全員と言ったが、やや語弊はある。
ゼンが臥せっているからだ。
『ああ、大丈夫ですよ。
さきほど説明した通り、
術式酔い……よりもちょっと酷い
術式酩酊の一歩手前って感じなだけです』
「……とても大丈夫とは思いにくい説明なんだけど?」
カイケンの台詞にグレースが当然の切り返しをする。
近場には建物らしきものはなく、全員で緊急避難的な
土の部屋を作った。
とりあえず雨風を凌ぎ、一晩だけ過ごすための代物だ。
とはいえ、女性陣が多いこともあり、
造りはある程度細やかで、別の場所に簡易的なお手洗い場所や
突貫で作ったお風呂も用意されている。
男性職員ではまず面倒がってやらないことだったりする。
寝床には柔らかい葉っぱを持つフェリアの木を使い、
何とか眠れる状態にはしているが、
恐らく一般人程度の生活をしていたであろうゼンの身体が
どこまでこの状況に耐えられるのか、
グレースは心配でもあった。
にしても、カイケンが時折見せるゼンへのぞんざいな態度が
どういう意図からくるものなのか、グレースは測りきれずにいる。
「あの、それで、どうしてお二人がここに……?」
そう言えば、先ほどソアラがそんなことを聞いていた。
「そこにいるゼン君の《融合化》能力で、
サイエンとかいう女の転移術式を拝借したんですよ。
詳しい説明は出来ませんが、カイケン氏の話を総合すると
どうやら『一度記した場所の記憶』から、
任意の場所を選んで移動する術式のようですね。
距離や方角に制限があるかはわかりませんが、
少なくとも一度は訪れる必要があるのは確かな術式のようです」
「……そ、それって、凄いこと
…………よね?」
「そりゃそうですよ。
てか、いちいちあたしに聞かないで下さい」
ソアラはシルビアを見て、
シルビアは鬱陶しそうに手を振った。
「ええ、その通り。
こんな術式が開発されたことが分かれば大問題よ。
『移動手段』については、
移動速度と移動高度について厳しく開発が
制限されているもの。
高速機動車や飛空艇を保有していいのは
一部貴族と王族だけ。
高度はともかく、これほどの距離を一瞬で移動するなんて
下手を打てば外交問題に発展するわよ。
特に、軍事力では一番と思ってるガーファングルからは
執拗な情報共有を強制されるでしょうね」
苦々しく思っているようで、実際グレースの眉間には
皺が寄っていた。ギルマスの前では一切見せない素の表情でもあった。
「でも、ゼンくんの様子からして、
移動すればするほど疲れちゃうんじゃないです?
あのサイエンって人は、どうやってあれだけの
人数を一度に移動させたんでしょう?
それこそサンサン並みの神導力を保有してないと
難しくないです?」
ヒナギクが簡単な言葉で率直な意見を言う。
そして、ちらりとカイケンを見た。
知ってるんじゃない? という無言の圧力だった。
『……えー、まあ、そうですね。
はい。おそらくとしか言えませんが、
一つ思い当たることがあります』
カイケンが勿体ぶって話をする。
何をどこまで話すか、迷っているようだ。
『サイエンとゼンくんの転移術式は、
効果としては似ていますが、
その運用方式が異なっていると思われます』
「どういうこと?」
グレースが代表して聞く。
『えっと、つまりですね。
説明が難しいんですが、
サイエンは地軸と自転の方向に合わせて
目標の位置をずらしただけ、ですが
ゼンくんはその術式を地点同士を直結して
空間を交換させるものと捉えたようなんです。
そこで、術式の費用対効果に差が出た
……というところですかね』
「「「……」」」
無言の意味が分から無いという答えに、
カイケンが苦笑する。
これ以上の説明がどうも出来そうにないからだった。
『しかしまあ、そのおかげでゼンくんが復活すれば
他の方とも合流は出来ますよ。
サイエンと違って方角を限定させる必要がないですし』
「……ふぅん」
グレースが半分納得、半分疑問という形で頷く。
ある意味ではこの時点で、ゼンが再び無茶な移動を強制され
再度酩酊状態に陥るのは確定だったのだが、
そんな些末なことを気にする女性はこの場には居なかった。
ただし、ソアラについては、そこまで想像していないだけだったが。
その時、ソアラの抱いている山猫の子供がピクリと動く。
先ほどから半覚醒状態で胸の中で微睡んでいる。
意外とそういうのに目が無いグレースが抱きたがったが、
山猫はソアラ以外には懐こうとしなかったので諦めたのだ。
決して、寝心地の良さが原因ではないだろう。
事態の変遷は、大きく変わりつつあったが、
山猫の寝顔はそんなこととは関係なく穏やかなものだった。




