SOS 101 山猫
ソアラは夢の中で、縦横無尽に活躍をしていた。
災厄のアルマを寄せ付けもせず、その術式はほれぼれするような
切れ味で見る者を虜にする。
普段は冷たい言葉を浴びせてくるシルビアも、
「ソアラはやっぱりすごいわ! 天下一品!」
と褒めてくるし、先輩であるサティも
「ソアラちゃんは凄いわ! 空前絶後!」
と賛辞の言葉をくれた。
手も足も出ないほど強いヒナギク管理官も
「サンサンは凄いです! 天上天下!」
と大絶賛だった。
「…………む?」
ぼんやりとした視界と意識の中、
ソアラは目を醒ました。頭の奥が少しだけ
ズキズキと痛み、その痛みがどんどん覚醒を促してくる。
しばらくして、先ほどの光景が夢であったことに気が付く。
そして、ソアラは自分が気絶していたことを知る。
術式酔いの影響だった。
「……ッ! ヒナギク管理官は?!」
自分が気絶したことで、
少なからず戦局に影響は起きたに違いなかった。
「大丈夫ですよ。討伐は終了です」
「そうよ、もう少し寝ていなさい。
術式酔いとはいえ、甘く見ると後遺症が残ることもあるんだから」
そこには、シルビアとサティが居た。
ソアラは二人に看病されていたらしく、
安全と思われる木陰に寝かされていたようだ。
その瞬間ほっとした気持ちがソアラの緊張の糸を切り、
貧血気味の身体がふらりとぶれた。
「っと! まだ安静にしてなさいってば」
シルビアがソアラにやや強く言う。
「ご、ごめん」
「いいから、寝ててください」
ソアラは素直に、身体を横たえる。
目の前には木々の影がちらつき、
本当に脅威は去ったらしく、静かな時間が過ぎていた。
「あの、ヒナギク管理官は……?」
「向こうでサブマスター達と話してます。
帰る方法を検討しているみたいですね」
「そ、そう」
無事だったらしい。まあ、あの鬼強いヒナギク管理官なら
自分の手助けが無くても大丈夫だったのだろうが、
その事実に安心をすると同時に、僅かに悲しくなった。
まるで、自分が何も役に立てない人間のように思えたからだ。
そんな風に考えていることを悟られないよう、
努めて心を落ち着かせていたとき、ソアラの耳に
微かな鳴き声が聞こえてきた。
「……? ね、ねえ、シルビアちゃん」
「はい。 どうかしましたか?」
「むこう? で、何か鳴き声が聞こえるんだけど」
「鳴き声?」
怪訝な表情を作るシルビアだが、素直に言われた方向へと向かう。
近くの茂みをつぶさに確認していくと、そこに一匹の山猫の子供が
横たわっているのが見えた。
「珍しい。山猫の子供ですね」
「一匹で? 親は?」
「見当たりません……怪我をしているみたいです」
「……捨て子か」
シルビアとサティの会話を聞きながら、ソアラはギクリとした。
「捨て子」という言葉を、ソアラは小さい頃から忌避していたからだ。
「自力での回復は難しそうな怪我です
……このままだと、死にますね」
「う~ん、特定保護動物ってわけでもないし……」
二人の会話を聞いていたソアラは、
ふらつく身体を無理やり起こして、二人に進言した。
「ま、まって下さい! た、助けてあげましょうよ!」
ソアラのあまりに唐突な様子に、
二人は驚いて、顔を見合わせた。
「どうしたんですか? ソアラ。
何か気になることでも?」
あくまで職員としての価値判断で助けるべきかを論ずる二人に、
ソアラは感情論をぶつける。
「可哀想じゃないですか、
ここで見つけたのも、何かの縁じゃないですか。
助けてあげましょう!」
そのあまりに必死の形相に、
二人は早々に根負けし、残り少ない回復薬を
見知らぬ山猫の子供に与えることになった。
致命傷とまではいかなかった傷は、
サティの回復薬で劇的に快方に向かい、
すぐに安らかな寝息となる。
それを見て、ソアラは心底ほっとした表情を浮かべた。
「とはいえ、山に返すならもう少しきちんと治療をしてからでないと
そこら辺の野獣の餌食になるだけですよ」
サティの冷酷とも言える台詞に、ソアラは身構える。
シルビアはどうせソアラが「連れて帰る」と言いだすことを予想し
今の時点からやれやれと溜息を吐く。
「おーい! シルシル! サッチー!
そっちはどーなのー? 起きたー?」
遠くから聞こえるヒナギクの声に、
その山猫の子供はピクリと耳を震わせた。




