Scene19.『隠れたメッセージ』
ブラッドは父から渡された黒い封筒を手にした。そこにはある人物に対する警告が書かれた手紙が入れられていた。“お前と同じ姿の人間”が存在する――という表現。似ている、でもなく。双子、でもなく。
この手紙は“まだ何か言おうとしている”――それを悟った。彼の中の第六感が。父がわざわざ黒い封筒にしたことには意味がある。
ブラッドは開かずの間になっていた父の書斎を調べることにした。考えるまでもなく“直感”で。
亡父の遺言により今屋敷を仕切っているのは彼である。書斎の鍵は彼が保管していた。それを持って書斎に行き、鍵穴に鍵を差し込んだ。ガチャと小さな音を立てて鍵が開いた扉の奥へと踏み入る。カーテンを閉めきった室内は夜のように真っ暗だった。ブラッドは壁のスイッチを押して天井にある蛍光灯を点灯させ、カーテンを閉めきったまま机の椅子に腰を下ろした。そこに置かれているパソコンを立ち上げるとランダムに文字が打ち込まれた画面が表示された。そこに法則性は全く見当たらなかった。
“答えは黒く塗り潰されている”――
「BLACK」「MESSAGE」――その単語が頭に浮かんだ。文字の壁を眺めるブラッド。やがて無の境地に辿り着くと壁の中の文字が“動きだした”。まるでそこから這い出そうとするように身をくねらせる。いくつもの箇所で同じ現象が始まった。その一つが壁の中から小動物が跳ねるように飛び出すと、それに続いて連鎖反応のように次々と他の文字も飛び出して空欄の上に整列した。BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE BLACKMESSAGE……
画面を見ながら高速でキーを打つブラッド。文字の壁から「B」「L」「A」「C」「K」「M」「E」「S」「S」「A」「G」「E」の並びの文字を抜き出してそれを一字一字削除していく。彼の指は迷いもなくまるで知っているかのように動いて、画面上に文章を浮かび上がらせた。それは――
“愛する息子、ブラッド。お前がここまで辿り着いてくれることを私は信じていた。お前は私、マドックとその妻ロビネッタの遺伝子を受け継いだ息子だ。だがそのDNA情報の一部は人工的に書き換えられてしまった。ある人物の手によって。その人物はお前の身近にいる。万が一のことを考えて名前は明かせないが、ヒントはRだ。“R”に注意しろ――
ブラッドの脳裏に二人の伯父の顔が浮かんだ。“Rupert”,“Richard”――ルパートとリチャード。どちらも“R”。この二人に限ってブラッドは思考が読めなかった。あの伯父さん達はいつも僕の頭の中を掻き乱す。あの“眼”は嫌いだ。あの二人は……苦手だ! 心底毛嫌いするように顔をしかめてブラッドは頭を振った。
父の遺言はまだ続いていた。
――そしてもう一つ伝えておかなくてはならないことがある。お前には双子の兄がいる。名前はレッド。彼とお前のDNA情報はもともと完全一致していたが、彼のDNA情報も書き換えられてしまった。そのデータはUSBに保管してある。――その置き場所は下の暗号を解いて見付けてくれ――と書かれていた。
――そのことを知ってしまった私はRに命を狙われるようになってしまった。これをお前が読んでいる頃には、おそらく私はもうこの世にはいないだろう。だが私がいなくてもお前はお前の“力”でRを見つけだすことができるだろう。そのあとどうするかはお前に任せる。ただ一つだけ約束してほしいことがある。私の代わりにロビネッタ(お母さん)のことを守ってやってくれ”
遺言はそう締めくくられていた。




