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Scene11.『誕生と生別』

今回は双子(ブラッドとレッド)の誕生と生別の話です。

「はあああ――――ッ……!」

 搾り出すような女の叫び声が室内に木霊した。その傍らには助産婦たちの姿が。

「ほら、もう少し! いきんで!」

「あああああ……っっ!」

 女は目を血走らせ、ベッド脇の握り棒をもぎ取らんばかりの力を込めて握り締める。歯を食いしばり、その声が最後の力を振り絞る甲高い呻き声に変わる。

「んんんん……ぅううッ!」

 そこにもう“ふたつ”の叫び声が重なった。



 ――午前6時43分。白み始めた天に、ほの明るい橙色の暁光が広がり始める刻。ロンドン市内の病院にて、双子の男児が誕生した。


「あれが僕たちの赤ん坊かぁ……」

「気持ち良さそうに眠ってるわ」

 保育器の中に入れられた赤ん坊達の姿を眺めて幸福に浸る若い男女。二人は夫婦で、この赤ん坊達の両親である。赤ん坊達は少し小さめに産まれたため、数日間病院で預かることになったのだ。今のところ何も問題は発見されていなかったが、念のために検査が必要だと医師に告げられていた。

「早く抱っこして、“私がママよ”って教えてあげたい……」

 切ない声音を漏らす妻を支えるように、その肩に腕を回す夫。

「大丈夫だよ、ロビネッタ。教えなくても、赤ん坊はすぐに君がママだって分かるさ」

 そう励まされた妻は柔らかな笑みを作ってみせるが、瞳には悲しい色が滲んでいた。双子の赤ん坊は、彼女が腹を痛めて産んだ子供ではなかった。彼女ロビネッタと夫マドックの遺伝子を受け継いだ子には違いなかったが、産んだのは別の女性である。そのことがロビネッタに不安を与えていた。産んでもいないのに、本当に私はあの子達の母親になれたのか? という複雑な思いが胸に絡み付く。

 何も知らない双子の赤ん坊達は安らかに眠っていた。まるで分身であるかのように見分けが付かなかった。寝姿まで一緒だ。同じように片手を上げて眠っている。すると並んで別の保育器の中で眠っているその赤ん坊達の頭が揺れた。

「見た!? 今、同時に頭を動かしたの!」

「ああ、見たよ。双子って面白いな」

 そしてまた止まって睡眠に入る赤ん坊達は、まだ泣くことと眠ることしかしらない無垢な天使だった。







 6日後――


 早朝の新生児室。保育器の前に立つ一人のナース。装置の中には茶色い髪の未熟児が眠っていた。隣の装置の中にはまるっきり同じ姿の未熟児が。ナースはその一つの蓋を開けた。中から赤ん坊を取り出すと毛布で包み、脇にあった台車に乗せる。それを通路に運び出した。と、すぐそこを野球帽を目深に被った男がシルバーカーを押して通り掛かり、流れるような手つきで毛布に包まれた赤ん坊を台の上から奪って、シルバーカーに入れた。男はそのまま通路の奥へと消えた。







 静寂に包まれた病院の個室にバイブ音が響いた。ベッドで寝ていた女が目を覚まし、唸っている物――携帯電話を枕元から取り出す。女はすぐにベッドから降りて着替えを始めた。パジャマを脱いで踝まで丈のあるワンピースを頭から被って腕を通し、ストールを肩にかけ、さらに白髪混じりの鬘を被り、紫色のグラデーションがかかったレンズの眼鏡をかける。顔体ともにまだ若さを残した女の姿が、見る見るうちに歳老いた老婆の姿へと変身した。女は携帯電話を片手に、ベッドの縁に腰を下ろす。

 06:00――携帯電話のディスプレイがその時刻を示した直後、病室のドアが開いた。野球帽を目深に被った男がシルバーカーを押して部屋に入ってくる。

「……」

 それを部屋に置くと男は無言で部屋から出ていった。

 “老婆”が動く。男が置いていったシルバーカーに荷物を乗せるとそれを押して病室を後にした。







 老婆がシルバーカーを押して院内の出口に行くと、先程の男が先に来ていた。その男が針金のようなものを使って鍵を開け、同行して屋外に出ると、既に敷地内に乗りつけた車が待機していた。二人はそれに乗って逃走した。

 数分程走ったところで車は停車した。人通りの少ない路地だった。道端に目印のようにブラックメタリックのアルファ・ロメオ159が停まっている。側に煙草を吸いながら立っている男がいた。その奥の路地裏に入ると柄の悪い数人の男たちが待ち構えていた。その中央に縦縞のスーツを着たボスと思しき男が立っている。

「確認しろ」

 その男が指示を出すと仲間の一人が動き、老婆が運んできたシルバーカーの中を調べた。赤ん坊を発見すると蓋を広げてボスにもそれを確認させる。

「よし」

 ボスは満足げに頷くと邪悪な光を忍ばせた眼で老婆(おんな)を見ながら、前に進み出た。

「よくやった」

 ボスがそう労いの言葉を述べると老婆――女の口元がゆっくりと吊り上がった。

 ボスが顎をしゃくると仲間が素早く動き、女が運んできたシルバーカーを持ち去っていった。女は目の端にその光景を置き、興味を前方にいるボス――男に向けた。鬘を脱ぎ、眼鏡を外す。

 ボスが歩を進め、二人の距離が近付く。

 女は手を伸ばし、その手がボスの首に回される。

「何故……?」

 女を受け止めた男の手は紅い液体で濡れていた。粘性を帯びたその液体がボタ、ボタと滴り落ち、地面に紅い雨を降らす。女は力尽きてボスの体をずり落ち、コンクリートの固い地面にその身体を打ち付けた。男はそれをちらりとだけ見ると

「始末しておけ」

 残っていた仲間にそれだけ伝えて路地裏から出ていった。すぐに表のほうから車のエンジンがかかる音が響く。表に停めてあった愛車のアルファロメオ159に乗って男が走り去っていく音だった。

「カ……ドマス……」

 女は搾り出すような声で男の名を呼んで事切れた。








次回も過去のエピソードになります。

※ここではカドマスをボスと言っていますが、この頃先代のボスはまだ生きていたので、このチンピラの中のリーダー…適当な言葉が見付からないのでボスと表記しました。(言い訳)

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